Red Hat Enterprise Linux 5投入と“リポジショニング”――エンタープライズ市場への注力Red Hatの新展開(1/2 ページ)

Red Hatは3月15日に“Red Hat Enterprise Linux 5”の発表を行なったが、この発表の中核メッセージは、実は新製品ではなく、Red Hatがエンタープライズ市場に向けて従来以上に本格的に取り組みんでいくことを表明したことにある。

» 2007年03月29日 09時00分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

エンタープライズ向けのサポート強化

 Red Hatは、従来からエンタープライズ市場を中心にLinuxプラットフォームを提供してきたが、もともと自然発生的に形成されたオープンソースコミュニティーをベースにしているため、エンタープライズユーザーに対するアピールが弱い面があったように思われる。特に日本では、主要なサーバベンダー各社がそろってRed Hatをサポートしており、プリインストールまたはバンドルでの販売を手掛けている。このため、Red Hatが前面に立たなくても、サーバベンダー各社がビジネスを育ててくれるという面もあった。

 しかし、Red Hatではより強力なメッセージを発信し始めている。その1つが、3月15日に発表された「Red Hat Cooperative Resolution Center」の開設だ。これは、Red Hatがパートナーと協力してユーザーにワンストップサポートを提供するもの。ユーザーが直面する問題の原因がRed Hatにあるのかパートナーにあるのかにかかわらず、Red Hatが窓口となって解決に取り組むという。このサポートの提供により、ユーザーはサポート窓口のたらい回しといった目に遭うことはなくなる。

 現時点では、開設が発表されたのみで、その詳細については公開されていないが、本来であればユーザーが行なうべき切り分けをRed Hatが行ない、それぞれの本来のサポート元へ必要に応じてエスカレーションするという一種のサポート代行を発表したことで、従来、こうしたサポートを実質的に行っていたサーバベンダー各社との関係がどのように変化するのかが注目される。

 オープンソースベースのシステムが、“LAMP”などの言葉で表現されるようになって久しい。LAMPは、Linux、Apache、MySQL、Perl/Pythonの頭文字を並べたもので、OS、Webサーバ、RDBMS、ライトウェイトなプログラム言語という、エンタープライズユーザーが利用する標準的なアプリケーションプラットフォームすべてがオープンソースベースで構築できることを強調する言葉だ。ただし、LAMPプラットフォームを使ってITシステムを構築した場合、その運用管理やサポートもユーザーが自力でやることになるのではユーザーに高い技術力が要求されることになり、導入の敷居が高くなる。Red Hat Cooperative Resolution Centerはこの「オープンソースベースのシステムをどうサポートするか」という問題に対するRed Hatからの回答であり、オープンソースベースのシステムはすべてRed Hatが面倒を見るつもりだ、という宣言と理解することもできるだろう。

 さらに、サポートに関しては、昨年秋にOracleが発表した「Oracle Unbreakable Linux 2.0」との関連も注目される点だ。OracleはRed Hat Enterprise Linuxを対象にバグフィックスなどの独自サポートをRed Hatよりも安価に提供すると発表している。企業規模の違いから考えても、また、エンタープライズ市場でのOracleのシェアの大きさから考えても、Red Hatには大打撃となるのではないかとも考えられたが、同社のスコット・クレンショウ氏は、「実際にサポート契約先をRed HatからOracleに切り替えたユーザーはほとんどいない」と語り、特段の影響はないとしている。前回紹介したとおり、米国での調査ではRed Hatのサポートに対する満足度はOracleを大きく引き離してトップにランクされているというデータもあることも、Red Hatの自信の裏付けになっているようだ。

Red HatでEnterprise Linux Platform Businessのバイスプレジデントを務めるスコット・クレンショウ氏

 さらに同氏は、Oracleが提供を約束したバックポートに関しても、「Red Hatでは既にバグフィックスをパックポートして旧バージョンに対して提供しているし、重要なホットフィックスに関しても同様だ。この取り組みは既に数年前から開始されており、Oracle Unbreakable Linux 2.0の発表には、何ら革新的な要素は含まれていなかった。OracleがRed Hatよりもよいサービスを提供できる状況というのは想像しがたいものがあり、Red Hatは現在の提供内容を何一つ変更する必要はないと考えている。さらに今回Red Hat Enterprise Linux 5を発表したことで、Red HatとOracleの差はさらに大きく広がっている。われわれは、ユーザーはRed Hatが提供するサービスの内容と製品開発力を評価し、選択してくれるものと信じている」と話す。

 Red Hatの支援するFedoraプロジェクトを見てみると、次バージョンのリリースに先がけてさまざまな改変を進めている最中である。CoreとExtraソフトウェアリポジトリが統合される予定であることや、従来のようにCoreパッケージのメンテナはRed Hatの正規雇用者でなければならないといった規制の解除も検討されるなどしている。Red Hatとしては、こうした開発コミュニティーの“上流”に立ってオープンソースソフトウェアの多様性をそぎ落としてしまうのではなく、あくまでコミュニティー主導での開発こそが将来のための技術革新のモデルになるととらえている。とは言え、そうした開発の場において、ユーザーの要望は開発方針を決定する大きな要素となる。そうしたユーザーの声、つまりは、Red Hatの顧客であるエンタープライズユーザーをうまく開発コミュニティーに届ける橋渡しこそが自社の重要な役割であるという考えは変わっていないようだ。

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