IT技術者は“不足していない”は本当か?――米デューク大学調査

企業の立場を擁護する議論としてよく耳にするのが、ニーズを満たすのに十分な数の技術者が市場にはいないのでは? という主張だ。

» 2007年04月06日 07時00分 公開
[Deborah Perelman,eWEEK]
eWEEK

 ハイテクやIT関連の仕事を海外にアウトソーシングしている米国企業の立場を擁護する議論としてよく耳にするのが、米国の数学・科学教育システムが、企業のニーズを満たすのに十分な数の技術者を供給していないという主張だ。

 しかしデューク大学の最近の研究では、この主張はでたらめだとしている。米国には技術者不足という状況は存在せず、オフショアリングはコスト削減が目的だという。

 「Issues in Science and Technology」(科学技術をめぐる問題)と題されたこのリポートは、デューク大学での2005年の研究テーマの1つであったインド、中国、米国における技術系大学の卒業率という問題についてさらに突っ込んだ調査を行ったもので、「National Academy of Sciences」誌の最新号に掲載された。

 このリポートでは、基礎研究の実施能力で中国が米国とインドを先んじている点に関して懸念を示している。また、米国は重要な研究開発業務をアウトソーシングすることによって国際的競争力を低下させる恐れがあり、インドでは教育をめぐって策を弄するあまり、競争力を失いつつあると同リポートは強調する。一方、将来的に有利な立場にあるのが中国だとしている。

 デューク大学が2005年に行った研究では、インドと中国では米国と比べて12倍の数の技術系卒業生を送り出しているという従来の神話に修正を加え、米国の技術系卒業生の数は両国に匹敵すると指摘した。

 デューク大学で技術管理プログラムの修士課程を担当する学内居住エグゼクティブで、研究リポートの共同執筆者であるビベック・ワドワ氏は当初の研究発表当時、米eWEEKの取材で、「非常に優秀な学生たちが、アウトソーシングで自分たちの仕事がなくなるのを心配していた。デューク大学の学生が心配しているのであれば、教育分野で何が起きているのか調べてみようではないか、というのが研究のきっかけだった」と語っていた。

 「この研究で最初に行ったのは、事実を確認することだった。しかし言われているような事実は発見できなかった。詳しく調べれば調べるほど、そのような事実が存在しないことが明らかになった」(ワドワ氏)

 しかしデューク大学の2005年の研究は、インドと中国の学士レベルの技術系卒業生の質に関して深刻な問題を指摘するとともに、インドでの人材不足と中国での失業問題を予測した。中国の国家発展改革委員会が2006年の大学卒業生の大半が就職できない見通しを報告するなど、今回のリポートは2005年の予測が正しかったと結論付けている。インドでの技術者不足もしきりにささやかれているが、私立大学や「教養学校」が同国での技術者不足解消に大きな役割を果たす見込みだ、と報告書は指摘している。

 「しかしオフショアアウトソーシングを促しているのはコスト削減であり、インドと中国の技術者の教育水準や米国の技術者の不足が理由ではない」と報告書は断言する。

 「調査の回答者は、米国技術者を雇うメリットとして、優れたコミュニケーションスキル、米国産業に対する理解、ビジネスに対する鋭い洞察力、しっかりした教育/トレーニング、優れた技術スキル、事業所から近いこと、文化的な摩擦がないこと、創造性、現状を満足しないチャレンジ精神などを挙げている」とワドワ氏は2007年のリポートで述べている。

 「中国のエントリーレベルの技術者を雇う主要なメリットとしてコスト削減が挙げられているが、しっかりした教育/トレーニングおよび長時間労働をいとわないという点を指摘した回答者もいた。同様に、インドのエントリーレベルの技術者を雇う主要なメリットもコスト削減であるが、そのほかのメリットとして、技術知識、英語能力、しっかりした教育/トレーニング、素早く習得する能力、勤労モラルの高さなどが挙げられている」(同氏)

 このリポートは最後に、「アウトソーシングは今後も盛んになり、次にオフショアリングの対象となる分野は研究開発業務である。こういった仕事では修士号や博士号のレベルが求められるが、中国は技術分野でこれらのレベルの卒業生を米国よりも数多く送り出している。インドでは技術系の博士号取得者の数は増えていないが、中国では急増している」と締めくくっている。

 米国が競争力を維持するには、K-12教育(義務教育)を改革するだけではなく、もっと努力が必要だ、と同リポートは結論付けている。

 「たとえわが国が必要なことをすべて実行したとしても、主なメリットが目に見えるようになるまでに、おそらく10年から15年はかかるだろう。グローバリゼーションが進むペースを考えれば、そのころには米国は国際的競争力を失っているだろう。わが国は教育によって状況が改善されるのを待っているわけにはいかない」とワドワ氏は述べる。

 さらに、米国は教育制度を改革する一方で、スキルを持った移民を積極的に受け入れる姿勢が必要だという。

 「スキルを持った移民が米国に多くの恩恵をもたらすのは明らかだ。彼らは経済に貢献し、雇用を創出し、イノベーションを推進する。H1Bは短期ビザであり、多くの制約がある。米国が特殊技能を持った労働者を本当に必要とするのであれば、永住権を与えることによって彼らを喜んで迎え入れるべきだ」とワドワ氏は指摘する。

 「一時ビザの労働者は起業することができない。わが国は現在、彼らが社会に溶け込み、米国が国際的に競争するのに貢献する機会を与えていない。また、海外からの留学生が卒業後も米国に容易に残れるようにしなければならない」(同氏)

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