コンテンツ配信を制御するアカマイ、その次なる一手とは

「インターネットの雲の中を制御する唯一の会社。」オンラインコンテンツの高速配信サービスを展開するアカマイは、自らをこう表現する。同社が展開する新たなサービス「アプリケーション・パフォーマンス・ソリューションズ（APS）」の特徴とは？

[聞き手：藤村能光，ITmedia]

　オンラインコンテンツの高速配信を手掛けるアカマイは5月15日、業務アプリケーションの高速配信サービス「アプリケーション・パフォーマンス・ソリューションズ（APS）」の機能強化を発表した。アカマイがこれまでに培ってきたノウハウが業務アプリケーションにどのように適応されるのか。またそれらがもたらす効果とは。アカマイの小俣修一代表取締役社長と、米アカマイ・テクノロジーズのフィル・ハレル副社長に、同社の取り組みの詳細を聞いた。

ITmedia　今回発表したアカマイのサービスについてお聞かせください。

小俣氏　インターネットコンテンツは、携帯電話に端を発し、その後iTunes、WiiやPS3のような音楽、ゲーム機に広がりました。そこで行われるアプリケーション配信の仕組みを業務アプリケーションにまで拡張させたのがAPSです。例えばコンテンツ配信に際してサーバに不調が表れた場合、従来はサーバを増設することで不調を解消してきました。しかし、不調に対してどれだけサーバを増やせば解決につながるかに対する明確な答えはありませんでした。アカマイはこれまでオンラインコンテンツやビジネスプロセスの配信に力を入れてきました。世界中に配備された2万台のアカマイ専用サーバから、分散コンピューティング形式でコンテンツ配信を行うことにより、1つのサーバに掛かる負担を劇的に減らします。

　APSは、Webアプリケーション、インターネット-VPNおよびリモートデスクトップ向けの高速配信サービスです。回線はインターネットであるため、国際専用線を利用するよりもはるかに安いコストで迅速に業務アプリケーションを配信できます。

アカマイ 小俣修一氏

ITmedia　APSは企業が抱える問題に対して、どのような解決策を提示するのでしょうか。

ハレル氏　現在企業を取り巻く問題として、アプリケーションのWeb化、データセンターの集約化、企業活動のグローバル化、コスト削減の4点があります。企業のIT部門の担当者と話すと、彼らは決まってこれらの課題を挙げます。グローバル展開を視野に入れる企業にとって、各拠点に置かれたサーバを1つの場所に集約することは、莫大な時間とコストが掛かります。APSを導入することによって、企業はサーバを1つに集約させる必要は無くなります。またWeb化したアプリケーションが配信されることによって、グローバルに分散する企業間の連携が簡単に取れるようになります。

　提供されるアプリケーションと、それを利用するユーザーの距離が遠ければ遠いほど、アプリケーションのパフォーマンスが劣化し、遅延が起こります。会社は専用回線を使わず、ネットワークとアカマイを組み合わせることによってアプリケーションを高速に配信することができるようになります。

米アカマイ・テクノロジーズ フィル・ハレル氏

ITmedia　APSの特徴をお聞かせください。

ハレル氏　APSの特徴はルーティングレイヤの最適化にあります。コンテンツ配信の際に、インターネット上で最適な通信ルート、すなわちパケットロスや遅延を自動的に回避するルートを選択します。ルーティングレイヤやプロトコルレイヤの最適化を通じて、アプリケーションを配信する際に、往復で転送されるデータ量を減らす道筋を自動的に選びます。

ITmedia　APSはアプリケーションを導入する企業にとって、さまざまな問題を改善するサービスになりますね。そのほかに、APSはどのような効果をもたらしますか。

小俣氏　APSはSaaS（Software as a Service）のグローバル展開を考える企業にも適応できます。アカマイはSaaSのコンテンツを作る会社ではありません。インターネット上のコンテンツをどれだけ速く配信するかに注力する会社です。セールスフォースドットコムの事例のように、エンドユーザーにアプリケーションを快適に使用してもらうためのサービス展開こそ、SaaSに対するわれわれの取り組みと言えます。エンドユーザーが抱えるアプリケーション配信の問題点は、配信の途切れや遅延による、快適なインターネット環境の喪失です。途切れない信頼感あふれるアプリケーション配信には、通信の最適化が必要不可欠です。特にSaaSのサービスをグローバルに展開しようとしている会社にとって、APSは有効な手立てとなるでしょう。