今日から開幕! Interop Tokyo 2007のインフラはこうして作られた

Interop Tokyoを支えるネットワーク「ShowNet」は、一時的なネットワークでありながら最先端のテクノロジを組み合わせ、しかもマルチベンダーの相互接続環境を実現している。その陰には幕張メッセ展示ホールで行われた綿密な検証作業があった。

» 2007年06月13日 07時44分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 6月13日より15日にかけて、千葉・幕張メッセで「Interop Tokyo 2007」が開催されている。文字通りこのイベントのインフラとして活躍するのが「ShowNet」だ。幕張の会場とインターネットとを結び、出展者の各ブースや来場者向けのネットワークサービスを提供する。

 ShowNetはインフラとしての役割を果たすと同時に、互いに若干異なる「方言」を話しているネットワーク機器の相互接続性("Interop"erability)をデモンストレーションする場として、またIPv6や10ギガビットイーサネットといった最先端のネットワーク技術を実装する場としても活躍してきた。

 このためShoeNetでは毎年ある「テーマ」を設け、そのコンセプトを実現する形で設計されている(関連記事)。今年のテーマは「Internet Evolutions」。インターネットという原点に戻りつつ、コアやアクセス、アプリケーションサービスなど多様化するネットワークに合わせてインターネット技術を活用、紹介していく。

ShowNetの安定運用に向けて検証を行うHotStage(ホットステージ)の全景

 「今年はあえてイントラネット的な要素を排除し、インターネットのバックボーン技術に焦点を当てた」と、ShowNetの設計、運用に当たるNOCチームのメンバーである奈良先端科学技術大学院大学、門林雄基氏は述べた。広域イーサネットやリング構成のトポロジ、インタードメインマルチキャストやIPv6など、「インターネットの進化、Evolutionはいくつも挙げることができる」と同氏は言う。

 こうしたコンセプトを踏まえ、幕張メッセと大手町までの間は、最大40Gbps、計90Gbpsの高速回線で接続。一方ShowNet内部では、これまで1つのAS番号で運用してきたものを複数に分け、その間でマルチキャストの実験などを行っていく。さらに、最近の複数の事故で改めて問われている「信頼性」の確保に向け、リング構成を取り、どこか一カ所に障害が起こってもサービスを継続出来る仕組みを取った。

「見える化」などの仕掛けも

 2007年のShowNetについて、NOCチームの慶応義塾大学専任講師、重近範行氏は「エンタープライズのユーザーを守る装置を『極力』排除した。こうした機器は何らかの形でトラフィックを検閲し、必要に応じて止める。それだけに、ネットワークパフォーマンスに直接影響を与える。こうした機器を挟まない設計をとることで、ネットワークの性能を最大限に引き出したい」と述べている。

 つまり「ネットワークをつなぐ」ということと「ユーザーを収容する」ということを分けた設計ということだ。逆にこうしたセキュリティ機器については、会場内に設けられたEnterprise Solution ShowCaseで紹介するという。

 今年のもう1つのポイントとして「ビジュアライズ」(可視化)にも取り組むという。sFlowやNetFlowといった技術を活用してパケットモニタリングを行える仕組みを整え、「ネットワークトラフィックの現状を人間が見て分かるようにする」(重近氏)。

 その一環として、情報通信研究機構(NICT)が開発を進めるセキュリティインシデント分析システム「nicter」も活用される(関連記事)

 またユニークな取り組みとして、会場内に用意された「ShowNet Cafe」では、Windows Vistaマシンを用意するほか、来場者が持ち込んだPCを接続できるようにした。ここでは、実際にIPv6がどれだけ使われているのかを把握できる「仕掛け」も用意するという。

 「IPv6にせよマルチキャストにせよ、これまでのShowCaseでは『用意ができた』ということを見せてきたが、今年はもう『リアリティ』を持って動く。キャリアから見ても、またエンタープライズから見てもこうした技術をリアリティをもってとらえることができる」(門林氏)

テスト、テスト、調整加えてまたテスト……

 ところで「ネットワーク機器というのは、設計して持ち寄って電源を入れればそれで動くというものではない。実際につないで設定を行い、不具合を直していく作業を繰り返すことにより動くものだ」(重近氏)

 この作業を実践するのが「HotStage(ホットステージ)」と呼ばれる検証期間だ。コントリビューター各社から提供されたルータやスイッチ、セキュリティ機器に監視システム、ラック管理装置にラック本体、さてはUPSに至る機器群と大量のケーブルとを展示会本番に備えて組み上げ、徹底的に検証する。

ShowNetを構成する機器群。段ボールの山、山、山……

 最もわかりやすい例は、会場内で利用される光ケーブル/イーサネットケーブルのチェックだ。「ShowNetではこうしたケーブルをうまく使い回している。毎年倉庫から出して利用するため、安全性などをきちんと測定してから使うようにしている」と担当者。一般にケーブルというものは、いったん敷設したあとはそのままで、片付けることは希だ。しかしShowNetでは一時的な利用となるため、故障のチェックが欠かせないという。

光ファイバーの扱いは丁寧に
ShowNetではケーブルの総延長も半端ではない。それを一つひとつ真剣にテスターでチェックする

 もちろん、ホットステージのメインは、ShowNetの心臓となるNOC(Network Operation Center)や各フロアに置かれ、出展者からの接続を収容するPOD(Pedestal Operation Doma)を構成する各機器の検証である。

 こうした作業には、NOCのメンバーに加え、公募によって選ばれたボランティアチームのSTM(ShowNet Team Member)も参加している。

 彼らはファンの騒音が響く中、ネットワークのトポロジ図を片手に「このケーブルにはこれがつながっているので、あっちは今は放っておいていいけどこっちはどうこう……」「ポート1番OK、2番もOK、3番はだめー……」と確認しては、必要な情報をガムテープでケーブルに貼り付けるといった作業にいそしんでいる。

トポロジ図やコンソールをにらみながら各機器の動作を検証していく

 意外なところでは電源問題もある。「最近の機器は消費電力が拡大しており、電源の安定供給が欠かせない。一方で、会場内で利用するのは仮設電源なので安定せず、場合によっては機器が動かなかったり支障が生じたりする。その意味でUPSは非常に重要」(重近氏)

 ホットステージでは、ShowNetの本番稼働で問題が生じないよう、各機器/ネットワークのスループットやジッタ(遅延)、マルチキャスト通信のテスト、さらにはバックアップ回線や緊急時電源への切り替えテストを実施。限られた時間の中で問題を洗い出し、結果に応じて機器や外部接続回線の設定を変更するといった形で一つ一つ原因をつぶしている。もちろん、機器を提供するコントリビュータからも多くの技術者が参加し、協力している。

ちなみにラックの裏側はこんな感じ。ケーブルのうねりっぷりと空調用扇風機が目を引く

 一連の検証作業は、昼間はもちろん、夜を徹して行われる。18時過ぎのミーティングで問題点を確認し、それに基づいて20時からまた別のルーティングの試験を実施する……というサイクルが1週間以上続く。

18時過ぎにミーティング。その日に洗い出された問題点、解決された点などの情報交換を行う。そしてHotStageはまだ続く……

 Interop Tokyo 2007の会場に足を踏み入れたならば、コンコースに並ぶ機器群に、展示フロアに置かれたPODに、そして首を巡らせて宙に浮かぶケーブルに少しでも目を向けてほしい。これこそ、昼夜問わず行われたホットステージの成果なのだ。そして、ShowNetに携わる人々に、ひいては皆さんの普段の仕事や生活の一環となっているインターネットを支え続けている人々に、ほんの少しでも思いをいたしていただければ幸いだ。

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