前編 「PCにとって代わるモノ」とは短絡的!?モバイルはいかに新時代を切りひらくか

モバイル市場は2006年、新たな段階に入った。だからといって、そのまま、これまでのPCにとって代わるモノになると考えるのは早計ではないか。

» 2007年06月28日 07時00分 公開
[成川泰教(NEC総研),アイティセレクト]

 最近、国内の情報通信分野、特に生活者視点からのインターネットに関連する広範なデータをまとめる機会があった。2006年における、企業から発表される業績や、PCや携帯電話といった端末、ブロードバンドなどのネットワーク回線、あるいはECやネット広告などサービスの利用状況に至るまで、いろいろな統計データを一時にまとめ、時間をかけてそれらに目を通した。もちろん多くの指標は、わが国のインターネット市場が引き続き順調に拡大していることを示しており、実際、その波に乗る企業各社の業績も好調である。とりわけインターネットサービス関連企業の成長は極めて良好に思えた。

 しかし、今回あるテーマに基づいてそうしたデータを眺めているうちに、世の中では順風満帆と思われているインターネットサービス領域を含め、生活者の視点から見た国内の情報通信関連の市場全般が、構造的な転換点に差し掛かりつつあるのではと考えるようになった。市場全体にある種「よどんだ空気」が立ち込めつつあるということだろうか。それはこの業界の将来に不安や悲観を抱くというよりも、新しい成長を実現する上で、どうしても超えなければならないステップが見えてきたということである。

新段階を迎えたモバイルインターネット

 あるテーマとは「モバイル」である。毎年新しい話題に事欠かない領域ではあるが、2006年はモバイルインターネットが特に大きく注目された一年だった。同年3月に総務省から発表された「平成17年通信利用動向調査」において、生活者がインターネットを利用する際の端末別の利用者数推計で、携帯電話からの利用者数が始めてパソコンからのそれを上回った。あくまでもアンケート調査から推計したものであるが、折しもモバイルキャリア各社が第3世代の高速サービスに軸足を移し、定額料金制の導入を本格化させると同時に、動画や音楽配信などさまざまなサービスが生まれ、モバイルの影響がブログやSNSなどにも波及した。

 さらに広告やECなどのサービスにおいても、モバイル市場の特性に焦点を絞った形でベンチャー企業の参入が相次ぎ、従来のPCを中心とするインターネット市場とは異なる形で、日本独自の市場形成を目指す動きが再び活発化した。こうした動きは「モバイル2.0」などとも呼ばれ、米国を中心とするウェブ2.0に対して日本型インターネットの将来をモバイルが主導するという考えが示された。

 そして、ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収で、ソフトバンクモバイルが誕生。これにより、沈滞していた3つのキャリアを中心とする競争構造に新たな刺激がもたらされた。キャリアによる市場開拓に大きな弾みがつくと同時に、その主戦場がコンテンツやサービスの領域に移行したことを印象付けた。

 こう考えると2006年はモバイル市場が、確かに新たな段階に入ったことが分かる。しかし、今後インターネット市場の成長にモバイルがどうかかわってくるかについては、モバイルがPCに代わって成長をけん引するというような、短絡的なことではないと思う(「月刊アイティセレクト」掲載中の好評連載「新世紀情報社会の春秋 第十七回」より。ウェブ用に再編集した)。

なりかわ・やすのり

1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。


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