Google、Postiniの買収でMicrosoftと対決へ

Googleはエンタープライズ市場への進出に向けて積極的な動きを展開するとともに、Microsoft Exchangeとの戦いでも攻勢を強めようとしている。

» 2007年07月11日 06時30分 公開
[Renee Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 検索分野の巨大企業であるGoogleが7月9日に発表したPostiniの買収は、同社がオンデマンド型エンタープライズアプリケーション市場で地盤を確保しようとする一方で、既に熱気を帯びているSaaS(Service as a Software)市場での戦い、特にMicrosoftとの戦いでも同社が一段と攻勢を強めていることを示す新たなサインである。

 メールのフィルタリングベンダーとしてスタートし、企業のコミュニケーションポリシーを適用するためのコンプライアンス技術のベンダーへと発展したPostiniを手に入れることにより、Googleは同社のメール/メッセージングアプリケーションのポートフォリオがまだ熟していないという人々の認識に対処することが可能になる。

 それに加え、GoogleはPostiniの巨大な顧客ベース(3万5000社/1000万ユーザー)を活用することにより、Microsoftが支配するデスクトップアプリケーション市場での競争に参加できるようになる。

 Forrester Researchのアナリスト、シャー・バンボスカーク氏は、「これは基本的に、Googleが『われわれはあなた方の主要市場で競争するつもりだ』とMicrosoftに挑戦状を突きつけたのに等しい。そうだとしたら、GoogleはMicrosoftの広範なバックオフィスのアプリケーションと競争することになるだろう」と話す。

 問題は、Googleによる6億2500万ドルのPostiniの買収で、エンタープライズITバイヤーがGoogleのアプリケーションを採用しても安心だと思うかどうかだ。

 Googleの企業向けホスティング型アプリケーション「Google Apps」の影響力が拡大しているのは明らかだ。Googleのエンタープライズ部門のデーブ・ジルアード副社長兼ゼネラルマネジャーによると、毎日1000社以上の中小企業がGoogle Appsをダウンロードしている。Google Appsをダウンロードした大学も数百校に上るという。

 しかしジルアード氏は、セキュリティをめぐる懸念が大手企業でのGoogleアプリケーションの採用の妨げになっていることを認めている。同氏によると、企業はアーカイビング、コンプライアンス、証拠開示のネイティブ機能を備えた「超簡単な」技術を必要としているという。

 このような状況を考えれば、1カ月以上前から噂されていたPostiniの買収も理にかなっていると言える。

 ジルアード氏は7月9日に行われた買収発表の記者会見で、Postini買収の理由を説明した。「Googleはこれまで一貫して、エンドユーザーの操作環境をシンプルで直感的なものにすることに強くフォーカスしてきた。しかし大企業の場合は、セキュリティとコンプライアンスが必須要件だ。Googleの狙いもそこにある。われわれはこのビジネスに進出すべきであると考えている。これによりサービスとしてのソフトウェアの普及が加速するだろう」。

 1999年に創設されたPostiniは、3種類のスイートを提供している。これらはコミュニケーションのセキュリティ(メール、Web、IM)、コミュニケーションのコンプライアンス(アーカイビング、暗号化、Webコンプライアンス)、そしてメールのセキュリティを対象とした製品である。

 Postiniで製品開発を担当する最高技術責任者兼執行副社長のスコット・ペトリー氏によると、同社のソフトウェアは、全社規模の配備用に設計されたマルチテナント構造のプラットフォーム上で利用するという。

 「われわれは、セキュリティとコンプライアンス全般を通じたサービスを顧客に提供する複数のアプリケーションを販売している。重要なのは、われわれが顧客のニーズに応じてアプリケーションを構成することができるプラットフォームを持っているということだ。顧客は、コンピューティングプラットフォームとしてのインターネットのパワー、そして一元的に管理と構成が行えるスイートを利用することができるのだ」――ペトリー氏は7月9日の電話会見でこのように語った。

 Googleはセキュアなコミュニケーション機能を提供するオンデマンド型プラットフォームを獲得する一方で、Postiniはグローバルなリーチを手に入れることになる。「スケールは当社にとってのメリットでもある。これにより、各顧客のニーズに合ったアプリケーションを開発することが可能になる」とペトリー氏は話す。

 Googleは、Postiniの買収に乗り出す前からメッセージングのセキュリティに対処しようとしてきた。しかし、それは他社との提携を通じた取り組みだった。これは当然、企業には受け入れることができないアプローチである。

 「われわれは提携にフォーカスしてきたが、各機能を統合する作業はユーザー任せだった。われわれがユーザーのためにこの作業を行うのは、当社の利益にかなうことだ」とジルアード氏は語る。

 Postiniのセキュアなメール/メッセージング技術を手に入れることでGoogleは、Microsoft(Exchange)、IBM(Lotus Notes)、Novell(Group Wise)などの企業や、Hotmail、Yahoo Mail、AOLといったオンラインメール/メッセージング市場の新サービスと競争できる立場を確保することになる。

 Nucleus Researchのアナリスト、レベッカ・ウェッテマン氏は、「Postiniはメールとインスタントメッセージングのセキュリティの主要プロバイダーだ。Postiniは巨大な顧客ベースを持っているため、この買収はGoogleに大きなチャンスをもたらすだろう。これは、Googleがエンタープライズ市場を自社の成長機会とみていることをと示す強力なメッセージだ」と話している。

 ウェッテマン氏によると、GoogleがPostiniの買収で本当に狙っているのは、Microsoft Exchangeが支配するエンタープライズ市場に進出することだという。同製品はMicrosoftが10年前に投入して以来、圧倒的な成功を収めてきた。

 「Postiniの買収を機に、企業はGoogle Appsを検討するようになるだろう。Microsoftのスイートに高いお金を払っていると感じている企業の場合は特にそうだ。その意味でメールは理想的な入り口だ」とウェッテマン氏は語る。

 Forresterのバンボスカーク氏も、セキュリティに優れたメッセージング/メールアプリケーションは、エンタープライズ分野でGoogleに強固な足掛かりを与えると考えている。

 「企業ユーザーがMicrosoft環境から他社製品に移行するというのは、大きな変化だ。Microsoftが深刻な脅威を受けるとしても、何年も先のことになるだろう。この買収で企業が既存のエンタープライズアプリケーションをお払い箱にするとは思えない。しかし新たなツールセットが市場に登場することで、企業は今後、これらのツールの方が優れているか、あるいは高速であるかといったことを判断できるようになる」(バンボスカーク氏)

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