仮想化市場に押し寄せる再編の波

VMwareの株式公開やCitrixによるXenSourceの買収は、拡大する仮想化市場に再編の波が起きていることを示すものだ。

» 2007年08月28日 17時58分 公開
[Scott Ferguson, Peter Galli,eWEEK]
eWEEK

 ダイアン・グリーン氏と彼女の夫がVMwareの創業に携わったのはわずか9年前のことだ。この新興企業は、ハイエンドのサーバやメインフレームでは既に一般的だったハードウェアの仮想化というコンセプトを、急速に拡大しつつあったx86市場に持ち込むことを目的として設立された。

 そして2007年の今日、VMwareはIT業界でも特に成長著しい分野のリーダーとして、ライバルの大手・中小ベンダー各社から追いかけられる存在となっている。カリフォルニア州パロアルトに本社を置くVMwareは最近、仮想化分野の再編が急速に進んだ激動の1週間を経験した。

 2004年にストレージ大手のEMCの子会社となったVMwareは8月14日、大きな期待を背に受けてIPO(新規株式公開)を実施した。同社の株価は公開初日に2倍近く上昇した。同社幹部は、これにより9億ドル以上の資金調達を見込んでいる。

 その翌日にはCitrix Systemsが、オープンソースの仮想化技術のベンダーであるXenSourceを5億ドルで買収する計画を発表した。両社とMicrosoftとの間には強い結び付きがあることを考えれば、この動きは業界に大きな影響を及ぼす可能性がある。Microsoftも「Viridian」と呼ばれる独自の仮想化ハイパーバイザーを開発中だ。

 また、CitrixとXenSourceの買収取引は、MicrosoftによるCitrixの買収の前奏曲かもしれないと指摘するアナリストもいる。The 451 Groupのアナリスト、ブレノン・デイリー氏もその一人だ。

 「Citrixは、Microsoftのソースコードにアクセスできるという立場を利用して10億ドル以上のビジネスを築いた。Microsoftが開発中のViridianハイパーバイザーのコードにXenSourceが独占的にアクセスできることが、今回の買収を促した最大の要因だ。Citrixにとっては、Viridianは自社の次のビジネスを構築するための基盤OSコンポーネントとなる。Windows Terminal ServerがCitrixのPresentation Serverの基盤になったのと同じだ」とデイリー氏は語る。

 いずれにせよ、この間の動きは、仮想化市場での競争が激しさを増すとともに、企業の間で同技術に対する認知度が高まることを予想させるものだ。今後数年で仮想化分野が大きく成長する可能性を秘めていることも、こういった状況を促進するものとみられる。市場調査会社のIDCでは、2009年までに企業が仮想化技術に支出する金額は、総額で150億ドルを上回ると予想している。

 ワシントン州レドモンドに本社を置くMicrosoftでシステムセンターと仮想化を担当するゼネラルマネジャー、ラリー・オレクリン氏は、「CitrixによるXenSourceの買収、ならびにVMwareのIPOは、仮想化市場のダイナミックな性格を如実に物語るものだ。現在、全世界で仮想化されているサーバは5%にも満たない。つまり、この市場は生まれたばかりであり、ユーザーにとってイノベーションと可能性に満ちているということだ」と述べている。

 仮想化とは、OS/アプリケーションの複数のインスタンスを単一の物理サーバ上で動作させる技術である。当初は、x86サーバの利用率の低さに対処するとともに、データセンター内のシステムを統合するための手段として宣伝された仮想化技術だが、現在では、バックアップや災害復旧プロジェクトに役立つ手段としてみられている。また、仮想化製品は従来、ソフトウェアが中心だったが、最近ではチップメーカーのAdvanced Micro Devices(AMD)とIntelの両社がそれぞれのプロセッサに仮想化機能を組み込んでいる。

 ここ数年、Virtual IronやSWsoftといった新興企業各社がVMwareの市場支配に挑戦してきた。Microsoftも大手プレーヤーとして頭角を現しつつある。そして今回のCitrixとXenSourceの結合は、さらなる競争を促すものとなりそうだ。

 Citrixの顧客は同社の動きを歓迎しているが、XenSourceの技術をベースとした仮想化環境に移行する準備が整っていない顧客もいるようだ。

 サンフランシスコにあるAppCentral Technologiesのクリストファー・ブーンCEOは、「われわれはフリーウェアとオープンソースを好んでいる」と話している。「以前にXenSourceを検討したこともあるが、われわれはMicrosoftとパートナーシップを組んでおり、同社の無償の仮想化技術を利用している。この分野では業界再編が大きく進むものと予想している。EMCによるVMwareの買収、そして今回のIPOの成果は、市場がこの種の技術を求めていることを示すものだ」。

 一方、Citrix Presentation Serverのユーザーであるテネシー州チャタヌーガのBlueCross BlueShieldでは、XenSourceへの移行を検討しているという。

 「Presentation ServerとVMwareの導入は、大成功とはいかなかった」と話すのは、BlueCross BlueShieldのWindows/ネットワークインフラグループでサーバーチームのリーダーを務めるマイク・プルウィット氏だ。「マルチコアプロセッサを搭載したブレードサーバを購入するくらいのコストに見合うような数字が得られなかった。彼らが製品をチューニングして、もっと優れた成果が得られるようになれば面白いのだが」と同氏。

 仮想化市場に参入する企業が増えるのに伴い、プルウィット氏のようなユーザーにとっては選択肢の幅が広がるだろう。しかしVMwareは、ライバルの追撃を許すつもりはないようだ。VMwareのダイアン・グリーン社長によると、今回のIPOは同社の知名度向上に貢献するという。同社が株式を公開して数時間後に行われた米eWEEKの取材でグリーン氏は、「これは当社の知名度を高める素晴らしいイベントだと考えている。われわれは当社のソフトウェアに誇りを持っている。当社のソフトウェアは顧客の間で大好評だが、そのことを人々に知ってもらうことが、われわれにとって最大の課題の1つだ。今日のイベントは、その点で大きな貢献をすると期待している」と語った。

 Gartnerのアナリスト、トム・ビットマン氏によると、VMwareは事業強化につながる買収対象を探すだけでなく、IPOで調達した資金の一部をコンサルティング部門の新設に投入するのが賢明だという。VMwareはIPOで成功したが、同社を取り巻く競争環境はますます厳しくなっている。ライバルベンダー各社は、Xenハイパーバイザーを採用することで、VMwareに代わる低価格の選択肢をアピールしている。

 しかし何といってもVMwareにとって最大のチャレンジとなるとみられるのは、「Microsoft Windows Server 2008」とViridianハイパーバイザーだ。Viridianは年末までにβ版が登場する見込みだ。

 「この5〜6年間、VMwareはほとんど競争にさらされたことがない」とビットマン氏は話す。「最初の本格的な競争が起きたのは、Xenベースのオープンソース製品を開発するベンダーが出てきたときだ。そして年内にはMicrosoftのViridianのβ版が登場する。Microsoftの製品はVMwareを脅かす存在になるだろう。それにMicrosoftは管理技術も大幅に改良した」。

 フロリダ州フォートローダーデールに本社を構えるCitrixの最高戦略責任者、ウェス・ワッソン氏によると、同社はXenSourceの買収でVMwareの競合企業のリストに入ることになるという。

 Citrixは1年近く前から、デスクトップのレベルとデータセンターの両方で自社の仮想化技術の勢力拡大を目指してさまざまな方策を検討してきた、とワッソン氏は話す。

 XenSourceの買収により、Citrixはデスクトップの仮想化とクライアントへのアプリケーション配信の分野を強化できるだけでなく、データセンターにも進出してこういったサービスを顧客に提供できるようになるという。

 「あらゆるネットワーク上であらゆるユーザーにあらゆるアプリケーションを配信できるようになりたい」とワッソン氏は語る。さらに同氏によると、CitrixとXenSourceの両社は、MicrosoftならびにIBMやHewlett-Packardと緊密な関係を築いており、これはWindowsが動作するx86サーバの市場でアドバンテージになるとしている。

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