客観的な手法で「使いやすさ」を追求したハンディターミナルユーザーの「手」が選択基準

カシオ計算機のハンディターミナル「DT-X7」は、ユニバーサルデザインの設計手法を全面的に取り入れて開発された最新モデルだ。「使いやすさ」を客観的に分析し、実際の利用シーンに合わせて徹底的に作り込んだという。

» 2007年08月30日 10時00分 公開
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 物流や小売、フィールドサービスなどの現場で、実際の“モノ”とシステムとを結ぶ重要な情報デバイスであるハンディターミナル。バーコードスキャナを内蔵して物流現場や小売現場で用いられる「グリップ型」、情報入出力を重視した「PDA型」、それからガスや電力などのメーター検針などに用いられる「プリンタ一体型」の、大きく3つの分野があるが、いずれも業務用機器であるがゆえに、これまでは機能や寸法、コストなど数値で比較できる部分に重点を置いて開発されてきた傾向が強かった。

 もちろん、以前から各社とも、使い勝手を意識して形状やボタン配置などに工夫を凝らしてきた。とはいうものの、デザイン面では客観的な説得力を持つ評価手法がほとんどなかったこともあって、コンシューマー向け機器ほどにはデザインを重視していない、と言わざるを得ない。

photo ハンディターミナル「DT-X7」

 しかし、実際にハンディターミナルを使うのは、物流現場の作業員や小売店の店員たちだ。ハンディターミナルの使いやすさは、その作業効率を大きく左右する。

 カシオでは、グリップ型ハンディターミナルの開発において、全面的にユニバーサルデザインの手法を取り入れ、「使いやすさ」「疲れにくさ」を客観的に評価しながらデザインを作り上げていった。

 その取り組みの成果が製品として結実したのが、9月から発売される「DT-X7」である。

 一見すると、多機能ケータイのようにも見えるDT-X7。ボタン配置や色遣い、画面周りの透明樹脂仕上げなど、たしかに最近のケータイと共通する部分も多い。しかしそのほとんどは、「結果的にそうなった」のだという。

 このユニバーサルデザインプロセスの全体推進は、カシオ開発本部 デザインセンター デザイン開発室の佐藤公一氏が担当した。そして、企画や設計に関わったカシオ八王子技術センター 開発本部 システム統轄部から、第二設計部 23設計室の松井基之リーダーと、第一開発部 12企画室の仁瓶朋之氏、以上の3名に話を聞いた。


開発段階からデザイナーや営業が参加

――DT-X7の開発に際しては、全面的にユニバーサルデザインの手法を採用したと聞いていますが、そのきっかけには何があったのでしょうか?

photo カシオ計算機 八王子技術センター 開発本部 システム統轄部 第一
開発部 12企画室 仁瓶朋之氏

仁瓶 このプロジェクトが本格的に立ち上がったのは、2006年の2月頃でした。それに先立ち、流通・小売向けのハンディターミナル市場を綿密にリサーチしたところ、現場の使い勝手を重視する意見が多いことに気付いたのです。機能面での意見が多いと思っていた我々にとっては意外な部分もありましたが、各社とも機能面での差が少なくなっている中で、ユーザーは基本的な使い勝手のよさを求めているとあらためて感じました。ですから、現場での使い勝手を徹底的に追求しようと考えたのです。

松井 開発の流れも違っています。通常であれば企画担当が仕様を出し、それを設計担当が形にするといった流れですが、今回は企画の初期段階からデザイン担当や営業担当も交え、特に現場のユーザーの意見を製品に盛り込むよう心掛けました。

――開発の流れは、いわゆる「ウォーターフォール型」でなく、「スパイラル型」に近い形だったというところですね。

仁瓶 ユニバーサルデザイン、あるいはHCD(Human Centred Design:人間中心設計)のプロセスを開発体制に取り入れた結果、自然に開発スタイルも変わったのです。このプロセスを全面的に取り入れた開発プロジェクトは、カシオ全体として初でしょう。

photo DT-X7に至るまでの数多くのモックアップ

松井 そして、現場の意見を参考に多数のモデルを作り、さまざまな体格の被験者に評価してもらい、さらに改良版を作る、という流れで、使い勝手を形にするところから作り上げていきました。

佐藤 最初に、プロダクトデザインの担当セクションと一緒に、現場の意見を反映した5つの評価用モデルを作りました。被験者による評価を元にした改良版としては、2種類のモデルを作っています。さらにその評価結果からできたデザインが、DT-X7の基本形状となりました。


2つの持ち方それぞれで数値による評価を実施

――数値としてカタログスペックに表せる仕様とは違い、「使いやすさ」の評価は難しいと思われます。どのような取り組みをしたのでしょうか?

仁瓶 まず、「軽い」「持ちやすい」「スキャン操作しやすい」「キー操作しやすい」の4点をポイントとして考えました。実際のユーザーには手の小さな女性も多いのです。女性たちの手にも合うよう、軽くて小さいことも重要なポイントと考えています。

 「使いやすさ」というのはよく言葉にしますが、数値で表せないものだけに、どうすれば使いやすい製品にできるかが難しいものです。今回ユニバーサルデザインのプロセスを取り入れ、使いやすさの要素を分解したりユーザーの体格や作業環境なども含めて様々な分析、検討を行うことにより、具体的な製品に盛り込むための「使いやすさの基準」を作って行ったわけです。

photo カシオ計算機 開発本部 デザインセンター デザイン開発室
佐藤公一氏

佐藤 デザイン面では、「アフォーダンス」(Affordance:もともとは心理学用語で、他動詞afford(〜を与える)+接尾語-anceから作られた造語。モノに対するヒトの認知と、それを元にしたモノへの働きかけの関係を説明する概念)を意識し、ユーザーが直感的に理解して迷わず使うことができるよう心掛けました。

 その上で、様々な検証を行っています。千葉工業大学の長尾准教授と共同で、「使いやすさ」を客観的に評価していったのです。その中では、視線の動きを調べるアイマークレコーダや、筋肉の緊張を測る筋電計を被験者に装着し、実際に使ってもらうといった実験も行っています。また、使用前と使用後のそれぞれで被験者の主観的評価を比較する方法も用いました。これらを数値として検討することで、客観的評価が可能になるというわけです。

松井 ほぼ形が決まるのに半年近くの期間をかけましたが、こうした評価作業は最後の方の段階まで繰り返していましたね。製品として本当に使いやすいのかどうか、何度も何度も検証したのです。

仁瓶 一例として、グリップ型ハンディターミナルは2通りの持ち方があるという点です。このことは、コンビニやスーパーの店頭を想像すると分かりやすいでしょう。

 商品の発注は、棚の値札にあるバーコードをスキャンし、テンキーで数値を入力します。このときはハンディターミナルを掌に乗せ、親指でキーを操作するという持ち方になります。スキャンのトリガーは、画面下にあるセンターボタンです。

 一方、入荷した商品の検品を行う際には、一方の手に商品を、もう一方の手にハンディターミナルを持って、商品のバーコードを読み取ります。そこで表示された入荷数が実際の数と一致するかどうかを数えます。このときの持ち方は、画面を上にして置かれたハンディターミナルを上から掴む形になります。ですから、スキャンのトリガーは左右の側面にあるサイドボタンとなります。

 この2つの持ち方のどちらでも、持ちやすく、操作しやすくしました。


随所に凝らされた工夫が「使いやすさ」評価を向上

――最終的に製品として完成するまで評価を繰り返したとのことですが、それでは具体的にどのようなポイントが、どのように使いやすさを実現しているのでしょうか?

photo スキャンの作業効率を考慮したボディデザイン

松井 例えば、バーコードスキャナのある先端部分は、側面から見ると傾いています。この傾きはスキャナの照射方向に一致させました。

佐藤 その結果、アイマークレコーダのデータでは、視線の動きが大幅に小さくなりました。以前のモデルでは値札の周囲でエイマー(スキャンするレーザー光の線)を追いかけるなどして動きが激しかったのです。トリガーを押してエイマーが最初に出る位置も、上下のハズレが少なくなり、ヒットが増えるというデータが出ました。

松井 持ちやすくするため、裏側に膨らみをつけてあります。さらに、指がかかりやすいよう、そこに浅い溝を設けました。重心のバランスも、そのあたりに合わせてあります。そして、持てば自然に指が来るようにセンターボタンを配置し、さらに指の届きやすい範囲に操作頻度の高いボタンが並ぶよう配置しています。

佐藤 この結果、持ち替え回数は大きく減っていますし、手や指の筋肉の緊張も小さくなりました。これは、使っていて疲れにくいことを意味しています。

photo カシオ計算機 八王子技術センター 開発本部 システム統轄部 第二
設計部 23設計室 リーダー
松井基之氏

松井 持ち替えが発生するにしても、裏面の溝形状がガイドになって手にフィットするため、手の上で安定するのですね。

佐藤 主観的評価の変化をみても、使用後に大きく向上しているので、そういった使い勝手が評価されていると推測できます。主観的評価を従来機や他社製品と比較しても、DT-X7では全般的に高い評価が得られました。

仁瓶 音声読み上げ機能を搭載した点も、使いやすさの一環です。検品の際など、いちいち画面を見る必要がなくなり、視線の移動も減ります。カラー液晶を採用したことも、コントラストが高く読みやすくなりますし、本体の下の方にあるファンクションキーの色に合わせて操作ガイドを表示するなどの面で非常に有効です。ボタンがカラフルなのは、そういう意味もあるのです。

 また、導入のしやすさという点についても重視し、アプリケーションの開発支援ツール群や無線LAN環境の構築支援ツール群など、各種の関連ツールも充実させています。


機能を犠牲にせずデザインを形にした設計者

――DT-X7は業務用の端末ですから、デザインを優先して機能面で妥協するといったことも許されないと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

photo 持ちやすさを重視し、あえてグリップ部分にあえて膨らみを持たせる

仁瓶 もちろん、今の市場で求められている機能はフルに搭載しています。無線LAN、Bluetooth、USB、IrDAなどの通信機能、カラー液晶、標準・大容量の2種類の電池、乾電池対応も搭載していますし、その他の機能も妥協はしていません。

松井 裏面の膨らみが印象的ですから、一見すると大きく見えるのですが、実は持ちやすい形状や重心バランスを実現するためにあえて設けたものです。ここはバッテリ装着部の蓋となっていて、外してみれば分かりますが、膨らみ部分にはほとんど何も入っていません。部品を実装した部分は薄く軽く仕上がっています。こうするためには、基板も非常に小さなものが要求され、設計者としては、かなり苦労しました。

――部品の実装などでかなりの工夫が見られるようですね。

松井 例えば当社のハンディターミナルでは、落下の衝撃で一時的にバッテリが外れたり、接点がずれた場合などに備えて、基板上にキャパシタを用いた予備電源を用意していました。しかし、コイルなど大きな部品をいくつも使わねばならず、小型化のネックとなっていました。

 そこで、低反発型の端子を新たに設計し、バッテリの動きに追随してバッテリの接点ズレなどを低減するようにしています。バッテリ装着部の一方にも突起を張り出させ、衝撃でバッテリが飛び出すのを防いでいます。これで、予備電源を不要にしました。

 さらに、ケータイと同様の超小型パーツを積極的に採用し、基盤全体の小型化に努めています。例えば抵抗は0603サイズ、つまり0.6mm×0.3mmです。こういった超小型部品を採用したことで、小型・軽量化が可能となりました。

――基板の固定方法も、ネジ止めからスナップに変更されていますね。

松井 ネジの大きさや重さも節約したいと考えました。また、スナップ止めにすることでフローティング構造とし、基板へのダメージも軽減しました。曲面が主体の形状としたこと、そして材質も新たに選定し直した結果として、ケースの肉厚を薄くしつつも強度を向上することができました。

「使いたい」「使い続けたい」と思わせる製品に

――DT-X7のデザインには、ケータイに非常に近いものを感じます。やはり、何らかの形でケータイ文化の影響があると考えてよろしいのでしょうか?

仁瓶 使いやすさのリテラシーというのは、ものは違っても共通するものがあるんでしょうね。ケータイに近づけようとしたわけではないのに、使い勝手のよいものを追求した結果、ある意味ケータイに近づいたかもしれません。

佐藤 女性の使用を意識したことも、その理由に挙げられるでしょう。ケータイでメールを打つのに慣れている方も多いですから、彼女たちが違和感なく使えるようにしようとすれば、自然にケータイに近い形ができてくるのだと思います。

――例えば画面周囲に透明パーツをあしらうなど、実用一点張りではなさそうな部分もありますよね。

photo 業務端末とはいえ、色使いを含めたデザイン性を高めている。数字キーも、テンキー配列ではなく携帯電話と同様の配列となっている

仁瓶 今回の開発では、営業担当者が関わったことで、製品コンセプトにエンドユーザーの視点も加わりました。「第一印象で使ってみたいと感じること」、そして「使って満足し、気持ちよく使ってもらえること」を意識しました。その結果、使い勝手がよいだけでなく、洗練されたデザインや全体的に上質な質感に反映されることになりました。

佐藤 ですから、女性店員が一目で「使いたい」と思うよう、外見にも配慮しています。また、小売業様では、その店のお客様の目にも触れることが考えられます。「第三のユーザー」と呼ばれる人たちです。店が、そのお客様の目まで意識して端末を選定するとしたら、端末の外見的な面にもこだわりを持つべきなのですね。

――今回は発売前のインタビューですが、営業活動は進められていると思います。顧客の声などはいかがでしょうか?

仁瓶 営業から聞くところ、引き合いはかなり多いそうです。「初見で好印象を持ってもらえる」、といった声もあります。また、営業側のスタッフが自信を持って売れる製品になったとも聞いています。

――今回のプロジェクトは、開発に関わった皆さんが自信を持てる製品作りでもあったのですね。

松井 これまで、開発を終えた時点では「終わってホッとした」という気持ちが強かったのですが、今回は「思った通りのモノができた」という満足感が強いですね。自信を持って送り出せる製品になったと思います。これで、実際に使われている現場を見ることができれば、すごく嬉しく感じることでしょう。

佐藤 デザインセンターとしても、今回は大きな挑戦でした。最初から最後まで通して、HCDのプロセスを確かめつつ進めることができたのは、カシオ全社でも今回が初めてなのです。今後、この経験は他の分野の製品開発にも活かされていくでしょう。

 次なる課題としては、このDT-X7を使ったユーザーの声を、いかにして次の製品に反映させていくか、といったところですね。

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提供:カシオ計算機株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年9月12日