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» 2007年10月23日 19時00分 公開

Boeingの納入延期が提起したPLMをめぐる疑問

Boeingの次世代主力機のロールアウトは、PLM導入の大きな成果だともてはやされた。しかしPLMの輪の中にサプライヤーが含まれていないのであれば、その成果も台無しだ。

[Renee Boucher Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 米Boeingの次世代機「787 Dreamliner」は、最先端のプランニング/設計技術の粋を結集した成果という触れ込みだった。

 787はPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトウェアを使ってすべてデジタル方式で設計された最初の旅客機の1機であり、この業界で初めて仮想ロールアウトが行われた。Boeingでは、Dassault SystemsのPLMソフトウェアを利用し、部品および組立工具の正確な3次元モデルを使って製造ラインのプランニングとレイアウトを行った。同社では、このプロセスにより787の製造段階での修正作業が大幅に減少し、タイムツーマーケットが劇的に短縮するとしていた。

 しかし最初の機体もまだ完成していない10月10日、Boeingは787 Dreamlinerの最初の納入を2008年5月から2008年12月まで6カ月延期すると発表した。その理由として同社では、部品の不足、特に複合材料の供給不足を挙げている。

 業界内部筋では、BoeingがPLMを導入したことは、Dreamlinerの納入延期とあまり関係がないとみている。サプライヤーの部品供給不足、供給順序の間違い、供給部品の不備などが理由だとしている。しかしこの状況は1つの疑問を提起した――「管理が及ばないサプライチェーンを考慮に入れることができないのであれば、PLMは何の役に立つのか?」、言い換えれば「PLMの可能性が真に実現されるのはいつなのか?」という疑問である。

 アナリストらによると、ベンダー各社はPLMソフトウェアの可能性を理解しているが、ユーザーはその可能性をまだ実現していないという。

 IDCのリサーチアナリスト、ジョー・バーカイ氏は、「PLMベンダーらはそのビジョンを理解しているが、今のところPLMの利用形態はばらばらというのが実状だ」と指摘する。「わたしはつい先日、DassaultのCEOと話をした。彼は間違いなくPLMのビジョンを理解しているが、今日の多様な製造環境に対応できないほどに斬新な環境を構築したくないと考えている」。

サプライチェーンも設計の一部

 IDCのバーカイ氏は「Supply by Design」というコンセプトを提唱している。これは、PLMプロセスを拡大してサプライヤーにも適用するという考え方だ。これにより、サプライチェーン全体を通じて、設計コンセプトに基づく協業を実現するのである。

 「サプライチェーンも含めた設計について考えるというのは、単にサプライヤーのデータベースを持っているというのとは全然違う。サプライヤーの能力と戦略、それらが設計に与える影響、逆に設計がそれらに与える影響を理解する必要があるのだ」とバーカイ氏は説明する。

 「Boeingはしっかりとした設計と製造プロセスをシミュレーションで実現しているが、サプライチェーンを含めた設計という部分で失敗した。製造プロセスの段階で、サプライヤーが複合材料を期日までに供給できないからといって驚くようではだめだ。ツールが問題なのではない。ツールの運用方法が問題なのだ。Boeingはそれがきちんとできなかったのだと思う」(同氏)

 OracleやSAPなどのベンダーは、サプライヤー、開発、製造というループを完成させるために、PLMソフトウェアをERP(Enterprise Resource Planning)およびSCM(Supply Chain Management)ソフトウェアに結び付けようとしている。Oracleは5月、PLMソフトウェアデベロッパーのAgileを4億9500万ドルで買収した。SAPも数年前からPLMソフトウェアの開発を進めている。

 OracleでSCMを担当するジョン・チョーリー副社長によると、PLMソフトウェアが真に効果を発揮するためには、財務、ERP、SCM、SRM(Supplier Relationship Management)、SRM(Supplier Relationship Management)を含めたサプライチェーンを通じて社内のあらゆるシステムと連携し、製品中心のプロセスに対するユーザー企業の考え方を変える必要があるという。

 チョーリー氏は5月、米eWEEKの取材で、「従来のプロセスを繰り返すのではなく、製品指向の観点からこれらのプロセスを見直す必要がある」と述べている。しかし開発部門以外の部門のプロセスに修正を促すのは容易ではないという。

 また、ビジネスアプリケーションをPLMに含めることが、(少なくとも当分の間は)解決策にならないと考えているアナリストもいる。「OracleとSAPは相変わらず、あらゆるものをBOM(部品表)の視点から見ている。Dassaultは製品ライフサイクル管理の視点から見ている。OracleとSAPは市場にある程度の影響を与えるだろうが、真のPLMの将来を切り開くのはPLMベンダーだ」とバーカイ氏は話す。PLM分野をリードしているのは、DassaultやUGSといったベンダーだ。

要件定義は最初の段階で

 BoeingがDreamlinerの最初の納入の延期を発表したとき、業界観測筋はすぐにBoeingのDassaultシステムと同社最大のライバルであるAirbusのDassaultシステムとの比較検討を行った。Airbusでは、PLMシステムの互換性問題のせいで、「Airbus A380」の納入の大幅延期と開発予算の超過を余儀なくされた。

 欧州各地に存在するAirbusのさまざまな製造施設で使用しているDassaultのPLMソフトウェアのバージョンが異なっていたため、システム間でドキュメントを交換するときに技術仕様の部分でエラーが生じたのだ。

 「フランス、ドイツおよびそのほかの地域で使われていた異なるバージョンのDassaultソフトウェアの非互換性といったような類の問題は、設計部門と製造部門の間のガバナンスがきちんとしていれば克服できたはずだ」とGartnerのリサーチアナリスト、マーク・ハルパーン氏は指摘する。「Boeingの場合は事情が異なるようだ。PLMに問題があったとも言えるし、そうでないとも言える」。

 ハルパーン氏によると、PLMではサプライチェーンがすべてではなく、ライフサイクル全体を通じて製品を導くこと、すなわち製品に関連するデータ、情報、知識を収集・再利用すること、そしてその知識に基づいてコミュニケーションとコラボレーションを行うことが重要なのだという。

 BoeingのDreamlinerの問題に関してハルパーン氏は、「システムがうまく機能しない部分があるとすれば、それはサプライヤーに対する要件定義の部分だ」と語る。

 「Boeingの状況については、今年の夏にDreamlinerが披露されたとき、内部のコンポーネントが欠落していたこと、また、主要パートナーが作業を完了したのは、構造の主要部分がエバレット工場に到着した後だったと言われているが、そこに問題の核心があると思う。サプライヤーに対して最初にやるべき作業の1つが要件を定義することだ。何か問題があったとすれば、そこに問題があったのだろう」(同氏)

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