MS、パートナーにCRM Liveを“安売り”の狙い

Dynamicsの販売ターゲットが基本的に中小企業であるのは間違いないが、MicrosoftはCRM Liveをエンタープライズユーザーに提供しようと試みているのだ。

» 2007年10月25日 16時22分 公開
[Renee Boucher Ferguson,eWEEK]
eWEEK

 Microsoftが、同社のCRM(Customer Relationship Management)ソフトウェアをホスティングおよび再販するパートナー向けに、「CRM Live」ホスティングサービスの価格を40%も切り下げた。必ずしも提携関係を必要としない同分野において、パートナーシップの価値を高めるのが同社の狙いだ。

 Microsoftは、10月23日にコペンハーゲンで年次カンファレンス「Convergence 2007」を開催し、1ユーザー当たり月額15ドルという同サービスの新価格を発表している。競合社を震撼させるほどの低価格と言えるが、同分野で、この手のサービスをパートナー向けに販売している企業はほとんど存在しない。

 Microsoftの業務用ERP(Enterprise Resource Planning)およびCRMソフトウェア(これらの一部はすでにホスティングされている)を間接販売する巨大なパートナーネットワークを抱えている同社にとって、これをオンデマンドサービスであるCRM Liveに組み入れるのは容易な仕事ではない。

 AMR Researchのアナリスト、ロブ・ボイス氏は、「Microsoftの幹部の中には、パートナーネットワークは同社が有する最大の資産だと言う者もいるが、SaaS(Software as a Service)分野への移行に際して、これが最大の障害になっているのもまた事実である。同社がこれほど巨大なパートナーネットワークを持っていなければ、SaaSにおけるその活用法について頭を悩ませる必要もなかっただろう。だが、同社は実際に大規模なネットワークを運用しており、これを生かす道を模索しなければならない」と指摘している。

 オンデマンド分野をリードするSalesforce.comとNetSuiteは、現時点では直接販売チャネルを通してソフトウェアを提供しているが、ボイス氏によると、NetSuiteは間接販売モデルの検証を進めているという。RightNow TechnologiesやWorkdayといったニッチなオンデマンドソフトウェア企業も、やはり直接販売チャネルを利用している。大企業はソフトウェアベンダーと直接コンタクトを取ることを望むため、理論的に考えれば、エンタープライズクラスのソフトウェアをパートナー経由で販売するのは難しいと、RightNowの広報担当者は述べている。

 間接販売モデルは、従来からMicrosoftが「Dynamics」ソフトウェアを提供してきた中小企業市場により適していると思われる。

 Dynamicsの販売ターゲットが基本的に中小企業であるのは間違いないが、MicrosoftはCRM Liveをエンタープライズユーザーに提供しようと試みている。しかし、同社が市場を開拓・支配するためにたびたび採用してきた低価格化戦略が、今回は裏目に出る可能性がある。

 Microsoftは今年7月に、Salesforce.comのエンタープライズ向け価格のおよそ半分となる月額44ドルを、1ユーザーごとに課すと述べていた。

 「顧客の間には、支払った分だけ利用できるという考え方が浸透している。Microsoft(のユーザー向け価格帯)はあまりに低いので、エンタープライズクラスCRMではないと考えるユーザーも出てくるだろうが、そんなことはない。だが、Microsoftが(CRMを擁して)参入しようとしているエンタープライズ市場では、(低価格戦略は)諸刃の剣になりえる」(ボイス氏)

 ボイス氏は、CRM契約を勝ち取るには、特性や機能より価格が肝になると話す。「Microsoftは、価格の面で大きなリスクを冒している。しかしながら、CRMを役立たせることができなかったり、役立たせるために導入価格の何倍ものコストをかけねばならなかったりする企業はたくさんあり、だからこそ(大胆な)価格帯がものをいうのだ。裾野の広いユーザー層も重要になるが、Microsoftはこの点でも抜きん出ている」(ボイス氏)

 それでもなお、間接販売モデル自体がはらむ問題や、エンタープライズクラスのオンデマンドソフトウェア販売における同モデルの有効性に対する疑問は残る。MicrosoftはCRM Liveソフトウェアのユーザーに、インストール形式、オンデマンド形式、両者併用形式といった複数の利用オプションを提供している。

 すべてに同じコードベースを用いているために、こうした体制が可能になっているのだ。また、世界のコンシューマ向けWebサイトでは1、2を争う「MSN」および「Hotmail」と同様に、CRM Liveを自社の巨大なデータセンターでホスティングしたり、パートナーのデータセンター(MSNおよびHotmailはこちらではホスティングされていない)を介して提供したりする計画も温めている。同サービスの利用者に課金する額について同社は詳細を明らかにしていないが、パートナーと十分張り合える価格にしなければならないことは予想がつく。

 Microsoftの関係者は、CRM Liveのホスティングによって、CRM Liveに独自の工夫を加えようと考えているパートナーは躍進を遂げるだろうと述べた。

 Microsoft Dynamics CRM担当世界製品マーケティングディレクターのブライアン・ニールソン氏は、「ホスティングのための設備が整っており、専門知識を持っていること、さらには、すぐれた垂直アプリケーションを開発し、ほかのサービスを統合して市場に提供しているなど、広範な製品提供を目指していることを、(ホスティングパートナー選別の)基準としている。

 パートナーと顧客にとって意義があるなら、われわれはどんなものでもサポートしていきたい。当社の努力によって価格が低く抑えられ、しかも価値のある製品であれば、パートナーは社内の専門知識に照らして必ずそれを選んでくれるはずだ」と話している。

 Microsoftはコペンハーゲンで、パートナーが同社のCRMコードをホスティングする権利に料金を支払う際の仕組みについても発表した。これによると、パートナーは料金を一括払いもしくは前払いするのではなく、Microsoftに対し、事前に1ユーザー/月ごとに支払うことになるようだ。「Microsoftは、1ユーザー当たり月額料金払いという顧客向けの支払いシステムを、パートナーにも適用するつもりだ。これが、SaaSの間接販売を成功に導くカギとなるかもしれない」(ボイス氏)

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