宋さんが漏らした弱音と僕にできたこと夏目房之介のその後の「起業人」(1/2 ページ)

ソフトブレーン創業者の宋文洲さんは歯に衣着せない論調ながら、なぜか憎めない話し方で説得力があった。そんな彼が、珍しく落ち込んで弱音を吐いたことがあった。

» 2007年10月29日 07時00分 公開
[夏目房之介,ITmedia]

 新聞を眺めていると、本当によく取材した起業人に再会する。2007年8月27日付の日経新聞「インタビュー領空侵犯」に『「弱者こそ正義」脱却を 清貧思想捨て活力再び』というタイトルで宋文洲さんが出ていた。肩書きは「ソフトブレーン創業者」。いつまでも同じ人間がトップにいるのはよくないというポリシーを守ってだいぶ前に社長を退き、昨06年には会長まで退任してしまった。たしか牧場をもって農業をやっていると言っていた。今は創業者という肩書きしかないのかもしれない。

 こういうことを、言ったり書いたりするのは誰でもできるし、むしろしたがる。でも、1963年生まれでまだ40代半ばにもならないのに、実際にやる人は、あまりいなんじゃないかな。少なくとも僕が直接知っているのは宋さんだけだ。言うことと、やることが一致しているので、彼の言葉は簡潔だけど力があるし、みんな聞きたがるのだろう。

 日本で話題になっている格差社会問題に、そもそも資本主義は本来格差を生むもので、ロシアも中国も経済底上げのための社会主義を修正したのに、日本だけ復興型経済を貫こうとしている。日本の平等は与えられたものだから、ベンチャーでリスクをとる人をたたくのではないか、というような論調だった。

 僕は、取材を通じて仲良くなり、頻繁に会うわけじゃないけど、何度か親しく話しているので、彼の言いたいことは分かる気がする。単純な自由競争思想ではない、と僕には思える。

 彼とは、「ITセレクト」誌2002年4月号の取材で初めて会った。話した途端にウマが合い、途中から取材というより対談に近くなり、僕の話のメモを宋さんが取り始めた。そんなことは、たぶん長い取材仕事の中でもなかったと思う。

「ITセレクト」誌2002年4月号より

 いま、文章にして読めば当たり前のように見えるだろう。しかし、その「当たり前」を具体化できるかといえば、日本の中で日本型の「当たり前」を前提にしている限り難しい。日本人は、自分を特殊と思い込むことで「日本じゃできない」と反論することが多い。しかし彼らの言う「日本的」なるものの多くは、歴史的に考えれば新しいものにすぎない。

 土地神話も、出版再販制度も、源泉税制度も、戦中戦後に定着したものだ。そこに伝統文化や日本的特殊性を見ようとするのは、変わるのが怖いだけではないか、と思う。このあたり、宋さんと私は互いに少し興奮するほど意見が一致した。


 テレビでもよく見かけた。歯に衣着せない論調ながら、なぜか憎めない話し方で、説得力があった。

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