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» 2007年11月07日 10時00分 公開

情報はどこにあり、誰のものなのか?

高度なICT社会となった現在、さまざな情報がネットワーク上に存在している。こうした情報はどこにあるのが最適なのか? そしてその情報が属する場所はきちんと定義されているのだろうか。ORFの開幕を前に、情報とネットワークのエキスパート4人が討論する。

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慶應義塾大学SFC研究所では、RFIDなど新時代の情報通信の研究も数多く進められている。このような先進的な研究には、企業とのコラボレーションが欠かせない場面も多い。NTTコミュニケーションズは、慶應義塾大学SFC研究所の先進性に注目し、日本のインターネットの黎明期から共同で研究活動を行ってきた。

 現在の社会ではさまざまな情報網が敷かれ、そこを駆け巡る情報も常に変化しながら通信が行われている。こうしたICT社会における情報のあり方や変貌について、またそれを活用するインフラに求められるものを、NTTコミュニケーションズの小原英治氏(経営企画部 サービス戦略担当 担当部長)、木元長憲氏(経営企画部 サービス戦略担当 担当課長)と、SFC研究所 所長の國領二郎氏、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授 三次仁氏に聞いた。

ITmedia 現在のネットワーク社会には、さまざまなデータ、情報がいたるところに存在しています。ICT社会におけるこうした情報のあり方とこれからの方向性について、具体的なイメージをあげてその分析をしていきたいと思います。まずは現在までのネットワークと情報との関係についてお伺いします。

小原 1980年代は、UNIXのXウィンドウ・システムなどに代表されるように、離れた場所からセンターのデータを読み取る方式が盛んに利用されていました。自分のデータはセンターサーバのホームディレクトリに存在し、そこへ遠隔からログインしてさまざまなデータ処理を行っていたわけです。

NTTコミュニケーションズ 経営企画部 サービス戦略担当 担当部長 小原英治 NTTコミュニケーションズ 経営企画部 サービス戦略担当 担当部長 小原英治

 90年代後半から一気にインターネットが普及し始めました。その結果、電子メールも自分の手元へ取り込むことができるようになり、端末側へのデータ蓄積が進んできました。

木元 一方、現在におけるWebメールやSaaSといったトレンドを見ると、再びデータはオンラインへと戻っていっています。GoogleやGooが提供しているようなオンラインサービスにおいては、メールやスケジュール、写真のような個人の情報がネットワーク上に蓄積されています。

小原 こうした変遷の理由ですが、一つにはネットワークのコストの問題が大きく関わっているように思います。今ではネットワークのコストが十分に低く、かつパフォーマンスが優れているため、ネットワーク上のどこかのHDD上に保存しておいても、そのデータは瞬時に手元に引き寄せることができる。このスピード感が、データを手元に置いておかなくても良いという安心感を生み出せるのではないでしょうか。シンクライアントなどのソリューションも、こうしたコスト的背景から追い風を受けているようです。

 このように見ると、ITシステムの構造上、ネットワークのコストとデバイスのコストを考慮し、データがどこに存在すれば最適かというポイントが、最近ではじわじわとNW上に偏在する方向に変化してきているように感じます。その点で「ネットワークをどうマネージメントしていくか」という技術が求められるようになったとも言えるでしょうか。ネットワークを利用者に負荷をかけずに、セキュアに、ロバストに、どこでも利用できる様にするマネージメントが重要になってきているということです。

ITmedia ネットワークの普及やストレージのコスト低下などによって、データ、つまり情報のあり場所が変化していくことは必然のように思いますが、その扱われ方の面からはどちらが望ましいのでしょう。

小原 セキュリティの問題が非常に大きく関係してくると思います。例えば家庭の現金などは、「タンス預金」よりも金融機関へ預けたほうが安心できるという方が多いでしょう。どちらがセキュアであるかは一目瞭然ですから。ところがデータの場合は、まだ現状のネットワーク上のセキュリティが十分でないと考えられているため、ローカルに置いておきたいと考えるユーザーも多いのではないでしょうか。

 ネットワークのマネージメントに関してはノウハウに自信がありますが、情報インフラとしてのインターネットはユーザに対してセキュリティ面での安心感をいまだ提供できていない部分があると認識しています。これが提供できるようになれば、ユーザーの考え方も変わってきます。様々な選択肢をユーザーに提供していきたいと考えています。

情報の多様化によって、あり場所も変化

三次 昨今では、さまざまな情報がネットワークを駆け巡っています。いわゆるコンピュータの「ファイル」も情報ですし、私が研究しているRFIDのIDデータも情報です。さらに言えば、そのIDが読まれた場所や時刻なども、この世界では重要な「情報」になるわけです。ですから現在においては、情報という言葉の意味するものが単に「何Kバイトのデータである」という概念を超えてしまいました。いわば情報の多様化です。

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授 三次仁 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 准教授 三次仁

 ネットワークについても同様で、社内ネットワークもあれば家庭内ネットワークもありますし、プロバイダや通信キャリアが持っているネットワークもあります。これらは同じ言葉で語られますが、実際はまったく違った形態や機器で構成されているものです。こうしたことから、情報がどこにあれば適切であり、かつユーザーが満足できるかということも、ネットワークのコストとその情報のコンテキストとの相関関係によって決まってくるのではないでしょうか。

國領 ユーザにとってどこにあってもいいので、安全に保管されている情報が欲しい時にセキュアな状態で取り出せればいいわけです。ネットワークのコストについても、実際の料金体系によって使えるものであるかどうかが決まるのではないでしょうか。3分10円で接続するのと、18秒1円で接続するのでは、利用のしかたがまったく異なりますから。

小原 ブロードバンドには二つの意味があって、一つは字義通り本来の帯域が広くて速いというものと、もう一つは常時接続であるというものです。iモードは前者より後者を先に実現するシステム設計をして、コンシューマーのライフスタイルに変革をもたらしました。一方、急速に家庭に入り込んだADSLは、むしろ帯域の広さや速さを売りにしていました。この例から分かるように、システムの設計バランスや課金の仕組みなどが、サービスや製品の性格を大きく左右することになりますね。

三次 そういう意味では、常時接続が実現されているのであれば、大きな情報でないかぎりネットワーク上にあってよいということかもしれません。iモードのメール自体も小さいですし、メールの到着が分かる「お知らせ」も同じく小さなデータですから。これを大きな情報でやられるとちょっと困りますね。

國領 私は、重要な情報は手元に置いておくと同時にネットワーク上にバックアップを作っています。ただ、究極的にはユーザーが情報のあり方を意識しないシステムになることが望ましいと思います。仮に手元のローカルディスクがクラッシュしていても、情報はネットワークから取り寄せられて何事もなく利用できる。これが何らユーザーに意識させることなく実現できることが、今後のネットワークの価値になっていくのではないでしょうか。

小さな情報のためのネットワークとプライバシー

ITmedia RFIDに代表されるように、今後はより小さな情報がネットワークを通じて頻繁にやり取りされるようになると予想されます。こうした事態に備えて、情報のライフサイクルという観点からネットワークはどのような要素を備えていけばよいのでしょう。

小原 すでにさまざまな種類のネットワークを敷設しています。課題はそれらをどのようにセキュアに結んでいくかということです。やり方としては、リアルにセキュアに結んでいくのではなく、端末同士を仮想的に1本の線でつなぎ、そこをセキュアに保つという手法があります。これならコストや手間をかけずにセキュアな通信を実現することが可能です。また、面積当たりの情報量が莫大なセンサーによる情報などは、ワイヤレスで同様の手法を取るといったことが行われるようになります。ラストワンマイルではなく、ラストワンメートルの技術のせめぎあいに来ていますね。

SFC研究所 所長 國領二郎 SFC研究所 所長 國領二郎

三次 センサーによる情報は、どのようにアプリケーションに渡すかが重要です。ですからセンサー1個1個の情報をそのままネットワークに流すのではなく、例えばいくつかをまとめて送ったり、あるいはどこにためておくかといった、アプリケーション側での工夫みたいなところも必要になってくるでしょう。そうしたほうがお互いに広がりが出てくるのではと期待しています。

國領 そうした意味では、情報のプライバシーにも配慮をしていかなければならないと思います。「その情報は誰のものであるか」という点です。情報を発信したものに帰属するのか、あるいは情報を保持しているものが所有もしているのか、という問題です。ある工場内で生産品質管理のためにRFIDタグの情報が行き来している、といった閉じた空間の場合にはこうした問題は起きません。しかし公共的な場所、例えば鉄道の駅構内やショッピングモールなどではどうでしょう。さらに道路や公園といった場所では……。そこでやり取りされるデータの所属はどうなるでしょうか。

 これらすべてが同じアーキテクチャーの通信システムで良いかといえば、そうではないでしょう。プライベート、セミパブリック、そしてパブリックという3つの空間が要求するプライバシーのポリシーに対応できる、ジェネリックなアーキテクチャーがネットワークにも求められるようになるはずです。当然、情報がそれぞれを行き来するときにどうするかという観点も入っていなければなりません。

 SFCのキャンパスでは、ネットワークを利用したインフラの次なる仕掛けとして、物の位置情報に注目しています。ここで考えているのは、物の位置情報というものを、その物が発信している信号をネットワーク側で取得するのではなく、物がネットワークからの情報を基に自分の位置を認識するという仕組みです。そして、自分の伝えたい相手にのみそれを伝える。これなら情報の所有者が誰かとかプライバシーといった問題を解決できるのではと考えています。実装するのはたやすくないことを分かってて言っていますが(笑)

三次 そのとおりですね(笑)。さらに例えば災害情報などのように、情報のコンテキストがある時点ではプライベートでも、次の瞬間にはパブリックなものに変身することがあるわけです。こうしたダイナミックな変容にも対応していくことが求められると思います。

小原 NTTコミュニケーションズでは、「m2m-x(エム・ツー・エム・エックス)」と呼ぶ接続システムの開発を進めています。さまざまな物にIPv6アドレスを付与し、IPSecやTLS(Transport Layer Security)によって物同士の通信をいつでもどこででもセキュアに行い、かつそのセッションをマネージメントする考え方の基に成り立つネットワークです。既存のネットワークを超えてすべての物をメッシュにつなげていき、一つのネットに見えるというコンセプトで、セキュアでリアルタイムな通信を行えるよう、特定の相手と直接やり取りするなどの機能を提供します。このm2m-x技術を用いて、従来のVPNサービスでは実現が難しかった、グループ/端末単位での暗号化通信ができる「マルチポリシーVPN for OCN」を8月から提供開始しています。このサービスは、1本の物理回線上での複数のVPNの設定や、接続ポリシーをオンデマンドに変更できるなど、新しい付加価値を持った仮想情報空間として利用できます。こういったビジネス展開の延長上に、パブリックな情報とプライバシー情報、それぞれの変容に柔軟に対応できる可能なネットワークが構築できるようになるかもしれません。

木元 現在のモノとモノとがつながるネットワークにおいては、管理者なり利用者が物に対して「つなぐ」という操作をすることによって通信させています。近い将来には、それぞれのモノがインテリジェンスを持って状況に応じて自ら発信し相互に「つながって」いき、必要な処理を済ませるというところまでいくのではないか、そういう時代がくるのではないかと考えています。

三次 物が発信するとなるとやり方はアクティブIDを使うなど実現方法はいろいろあります。食品の出荷履歴のようなものであれば、それにメモリを載せる方法も取れますし、常にネットワーク上にためておいて、IDを読み取ったときにためてある情報を呼び出すということも可能でしょう。

小原 固定されている物の情報を集めることは比較的簡単ですでに実現できている部分もありますが、移動する物の場合は話が複雑になります。据え置き型のコピー機などはその機器メーカーさんと設置先の企業と手を組めばシステムとして組むことができますが、食品などのように流通する物は、サプライチェーンごと提携が必要となり、しかも必要とする情報がそれぞれ異なっていたりするため、結果的に大規模で時間とコストのかかるシステムになってしまうためです。国や自治体による取り組みもありますが、現状ではステップバイステップで少しずつ進められています。NTTコミュニケーションズはSFC研究所と連携し、「電子タグの高度利活用技術に関する研究開発」等、総務省委託研究も実施しており、そういった研究成果がm2m-x実用化につながっています。

次世代社会のインフラとは?

ITmedia 情報が変化してきており、それ自身が新たな価値を生み出している現在、それを支える社会インフラはどのように進化すればよいのでしょう。

國領 セキュアな環境であると同時に、高い柔軟性が必要になるでしょう。情報のあり場所をどこにするかを含め、いろいろな業界の異なるニーズに対応でき、かつ個別のアプリケーションの要求に応えることのできる性能を備えていることが重要なのではないでしょうか。

三次 いつでもどこでもつなげられるというコネクティビティも求められるでしょうね。そうなると、共通のシステムデザインやアーキテクチャーといったものを、通信キャリアが推し進めて作って行かなければならない。本当のユビキタス社会は思い切ったインフラ先行が実現の鍵になるでしょう。

NTTコミュニケーションズ 経営企画部 サービス戦略担当 担当課長 木元長憲 NTTコミュニケーションズ 経営企画部 サービス戦略担当 担当課長 木元長憲

小原 柔軟性の面では、一社独自で進めていくには難しい部分も出てくると思います。有効なのは、標準化した上でアライアンスを組んで共同で進めていくという方法で、これには通信キャリアだけでなく、それぞれの業界の状況をよく理解しているパートナーを探し出すことが必要になってくると考えています。

木元 今までのネットワークは、情報伝達の「パイプ」をいかに提供するかという視点から整備が進められてきました。次のステップでは、例えばプライベート/パブリック/セミパブリックといったような情報の流通ポリシーに従った最適な情報空間のコーディネートをどう提供していくべきか、ということが大切になってくるということを改めて認識しています。

ITmedia ORF2007では、RFIDを使った新しい情報の活用提案として、「ブックカフェ」を出展されますが、これも物と情報の関係性を確認するヒントになるものでしょうか?

國領 今までは「引用」という形のネットワークで本と本が結びついていました。ここではそれをユーザーにやってもらうという仕組みです。RFIDタグをつけられた本をユーザーが手に取ると、「その本を手に取った別のユーザーはこんな本も手にしています」といった情報を知ることができるのです。これで、同じ空間の中で本と本との間にユーザーが作った関係が生まれます。知の創造空間における知の生態系とも呼べるものではないかと考えています。



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提供:NTTコミュニケーションズ株式会社、慶應義塾大学SFC研究所
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年11月30日