『1984年』の監視社会から読み解く情報発信の自由度ネットは国家の情報統制に対抗する力をもたらすか(2/4 ページ)

» 2007年11月23日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

情報発信の自由度の低い国とその実態(10〜6位)

 『1984年』さながらに報道の自由度が低い国家も、世界には存在する。「国境なき記者団」などいくつかの団体が、その状況を毎年のように調査し、結果を公表している。

 報道の自由度が低い国には、国内のコンピュータネットワークを政府が完全に掌握しているものも少なくない。Geers氏は、サイバー社会における情報発信の自由度が低い10の国家を紹介した。また、それぞれの国について規制の実状を紹介すると同時に、その国の公的機関のサイトに侵入してコンテンツを書き換えるなどの“サイバーレジスタンス”活動についても触れた。

 以下、彼の報告を要約して説明する。

・10位 ジンバブエ

 2006年、ムガベ大統領が情報局に対し、インターネットによる情報発信を制限するよう指示した。国家に対するネガティブな情報を世界に発信させまいとする意図によるものだ。その施策の中には、インターネットジャーナリストを閉め出したり、プライベートなコミュニケーションを監視するといった内容も含まれている。国外との接続ゲートウェイには、中国からもたらされた監視システムが導入されているという。

・9位 イラン

 こちらは逆に、外部からの反イスラム的な情報の流入を防ぐのが主な目的だという。ポルノサイトや匿名ソフト、そして政治的なサイトなどへのアクセスがブロックされる。また、自国語で書かれた外国サイトへのアクセスも規制されることがあるという。

 しかし一方で、ブロガーたちのレジスタンス活動も活発だ。身の危険を感じつつも果敢に発言を続けたり、政府側のブラックリストを見つけ出して投稿したりといった活動も行っている。また、サイトをミラーリングしたり、RSSを活用するなどして規制をくぐり抜けようとする動きもある。

画像 Freedom Houseによる報道の自由度世界ランキング地図。自由度が低いと判定された国や地域は紫色で示されている(2007年版2006年版
画像 国境なき記者団による報道の自由度世界ランキング。最下位は北朝鮮だという(2007年版2006年版

・8位 サウジアラビア

 イスラム教に基づいた政策としてインターネットを統制している。プロバイダーはイスラムの価値観、伝統、文化に従わなければならない。

 国家レベルのプロキシを運用し、ブラックリストでブロックする、またはサイトをキャッシングして評価済みの内容を見せるなどの施策を実施している。ブラックリストに載っているサイトに対してアクセスすると、アクセスが許されていないことや、ログを取得されている旨のポップアップが表示される。また、暗号化通信の利用は許可されていない。

 興味深いことに、これらの施策の内容に関しては基本的に公開されており、ブラックリストなどの取り組みがあまりうまくいっていないという実状も正直に公表しているのだという。また、ブラックリストに対する追加/削除要請フォームもある。

・7位 エリトリア

 アフリカにおいて、オンラインになった最後の国。そして、最初にオフラインになった国でもある。2000年11月、512Kbpsの回線が入り、インターネットに接続できるようになった。しかし、国民の多くはコンピュータを持つほどの経済状況にないのが実状。一般的な村落では、テレビを持つ家庭もまばらだというほどだ。

 2001年には記者やNGOの在留が認められなくなり、2004年にはインターネットカフェが“教育と研究”施設となって、エリトリアのインターネットの歴史を閉じたという。

・6位 ベラルーシ

 旧ソ連の一部だったベラルーシは、「古き良き時代のKGBが生き残っている」といわれる。出版や放送は大統領令で統制されている。インターネットに関しても国営の通信会社が独占しており、同じく政府の統制下にある。

 2006年には大統領選が実施されたが、報道関係サイトや候補者のサイトなどが一斉にダウンした。政府によるDoS(サービス妨害)攻撃とみられる。また、首都ミンスクではDNSが止められたのか、アクセスできない状態になった。また同時期には、フラッシュモブ(インターネット上で時刻や場所を決めておき、一斉に群衆が集まる行動)を行おうと集まった人々が、わずか15分で警官隊に囲まれたという。結局、選挙は現職のルカシェンコ大統領が圧勝した。

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