モバイルセントレックスの現在モバイルセントレックスのススメ(1/2 ページ)

「モバイルセントレックス」という言葉は2005年ごろから登場したが、具体的にはどのようなものなのだろうか。最新事情を含めて、その基本をみてみよう。

» 2008年01月07日 15時30分 公開
[三浦竜樹,アイ・ティ・アール]

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モバイルセントレックスとIPセントレックス

 最初に、モバイルセントレックスとは何かについて考えてみよう。読者の皆さんもモバイルセントレックスというキーワードを聞く以前に、IPセントレックスというキーワードを頻繁に耳にしてきたことであろう。どちらもセントレックスという言葉が含まれているが、この「セントレックス(Centrex)」は、「central exchange」の略語(centr + ex)であり、日本語では電話事業者の交換局や中央電話局という意味である。すなわち、企業のビルなどで内線・外線通話を実現するための交換機能を提供する仕組みとなる。

 まず、IPセントレックスについて説明しよう。このキーワードでいう「IP」とは、IP電話のことを指す。2000年ごろ以前であれば、ほとんどの企業ではビル内の複数の固定電話機を、一般的にPBX(Private Branch eXchange)と呼ばれる構内交換機によって内線や外線通話を行ってきただろう。しかし、2000年代に入るとADSLやFTTH(Fiber To The Home)、広域イーサネットといった常時接続・高速回線の普及により、VoIP(Voice over Internet Protocol)という音声をIP通信網にて伝送する技術が成熟し始め、同技術を利用したIP電話の企業への浸透も進んでいった。

 普及の要因となったのは、企業のLAN/WANの広帯域化と、PCでのデータ通信に音声を統合できるようになったことが大きい。また、導入の動機としては、拠点間の通話も内線扱いになり、通話コストを削減できることや、人事異動などの際に電話の移設工事の手間やコストが削減できるといったメリットが挙げられる。

 一方、デメリットは、企業でIP電話を利用する際に従来のPBXではなく、IP-PBX/SIPサーバを利用することになり、その管理が煩雑であるため、運用管理コストが高くなることが挙げられる。また、技術の進歩によって、導入したIP-PBXが陳腐化するスピードなどもデメリットである。こうしたデメリットを考慮して、VoIP網制御装置を自社で設置・運用せず、通信事業者などの外部に委託する方法がIPセントレックスサービスである。

モバイルセントレックスとは

 モバイルセントレックスもIPセントレックスと同様、その導入目的の根底にあるのは、通話コストの削減や電話の移設工事のコスト削減である。ただし、IP電話に加えて、従来の固定電話ではなく、より利便性の高い携帯電話に置き換えようとしたものがモバイルセントレックス発祥の背景だ。モバイルセントレックスであれば、電話の移設工事だけでなく、配置転換やレイアウト変更に伴う配線工事やPBXの設定変更なども一切不要になる。加えて、オフィスの内外問わず、電波が届く限り離席中や外出中による電話の取り次ぎの必要もなくなる。

 モバイルセントレックスの定義は、IPセントレックスからの発展の流れから考えれば、図に示すようなIP-PBX/SIPサーバと各固定IP電話にLANケーブルを接続する代わりに、無線LANのアクセスポイントと無線LANモジュールを登載した携帯電話によって、内線・外線通話を実現するものになる。しかし、モバイルセントレックスと称したサービスを実現する方式としては、内線機能も含めたすべてを携帯電話会社の設備を利用するものと、内線機能は構内に通信機器を設置してオフィス内で処理するものの2種類が存在する。

図 モバイルセントレックスの概念図(出典:ITR)

 モバイルセントレックスの2方式の一つは、先に述べたとおり、無線LAN通信機能を内蔵した特殊な端末を使用して無線IP電話を利用するものである。もう一つの方式は、内線通信に無線LANでなく、通常の携帯電話の通話と同様に、内線通話にも携帯電話の電波を利用するものである。さらに、携帯電話の電波を利用するモバイルセントレックスは、オフィスビル内に小型の携帯電話基地局と専用の交換機を設置して内線通話を可能にするものと、既存の携帯電話サービスを、内線通話のように利用できる料金プランで提供するものである。

 国内でモバイルセントレックスとして提供されているサービスを、主に3つの方式に分類すると、NTTドコモの「PASSAGE DUPLE」とKDDIの「OFFICE FREEDOM」がモバイルセントレックスの定義に該当するサービスとなる。一方、小型の基地局をビル内に設置するタイプは、KDDIの「OFFICE WISE」がある。さらに、ソフトバンクモバイルの「ソフトバンクモバイルオフィス」では、内線通話のように指定したグループ内の通話が無料となるサービスの方式もある。これら3つの方式は、技術的な課題なども異なる。また、今後の主流は先の定義の方式になることが想定されるため、3番目の方式は本稿ではモバイルセントレックスとは捉えないこととする。

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