企業が必要とするERPとは?ERPで変える情報化弱体企業の未来(1/3 ページ)

企業が経営に必要な情報を蓄積し活用する。こうした活動をサポートするのが、ERPと呼ばれる基幹業務のためのアプリケーションである。企業それぞれが抱える課題に対して、ERPはどのような解決法をもたらすのだろうか。

» 2008年01月09日 00時30分 公開
[赤城知子(IDC Japan),ITmedia]

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 ERP(Enterprise Resource Planning)やCRM(Customer Relationship Management)は、すでに企業でIT用語として使われるようになってから10年以上が経過しており、いまさら長々と説明をするまでもないだろう。移り変わりの速いドッグイヤーと言われるIT業界において、ERPやCRMといったソリューションが長らく企業の課題を解決するものとして取り上げられるのはなぜだろうか? この点を理解することができれば、企業システムの在るべき姿を正しく認識することができるのではないだろうか。

進んでいる? 企業の情報化

 企業は大小にかかわらず基幹情報システムに課題を抱えており、その解決手法としてのERPやCRMの導入効果と活用方法が議論されている。では、企業が抱えるシステムの課題とは何か? そこにはさまざまなものが考えられるが、アンケート調査などを行うと必ず次のような課題が表面化する。

  1. 常に革新が進む情報技術への対応
  2. 企業システムが、市場変化のスピードに追随できない
  3. 部門最適化を優先するため、各システムがサイロ化され情報が見えない
  4. グローバルな環境に対応していない
  5. 情報システムの運用・維持コストが高く、新規投資に割り振ることができない

 企業の持つこうした課題を踏まえて、本特集の第一回目は、企業が抱える基幹情報システムの古くて新しい課題に対する、ERPおよびCRMソリューション市場の動向、そして主に中堅・中小企業におけるERPソリューションの導入状況について解説する。

ERP/CRMソリューション市場の定義

 調査会社であるIDCでは、ERPソリューション、CRMソリューションを、以下のような機能を持つパッケージソリューションであると定義している。これらのすべてあるいは一部を備えるものが、いわゆるERP/CRMといったアプリケーションであると言える。

機能 代表的な機能説明
財務会計 会計、財務、および資金管理機能をサポート。買掛金勘定、売掛金勘定、一般元帳、固定資産などの一般的な財務および管理会計ほか、キャッシュ管理、取引管理、リスク管理、ほか
人事給与 給与管理のほかに人事記録、諸手当管理、報酬など、eリクルート、インセンティブ管理、人事業績管理、要員管理など人材管理のコア機能、ほか
調達/購買管理 資材や、サービスの調達に関連したビジネスプロセスの自動化。発注から購買代金の現預金による支払、買掛金残高管理。電子調達、セルフサービス調達指示、承認ワークフロー、サプライヤー管理、EDI連携、調達分析、ほか
販売(注文)管理 受注から請求書および決裁までの販売注文処理とオーダー計画および需要管理機能を処理するビルトイン機能の自動化。オーダーおよび製品構成のほか、価格オプション、送料計算、およびクレジット確認が組み合わされて販売チャネルに左右されない統合オーダー管理。そのほか価格履歴の表示、収益管理、見積や買掛注文、一括注文、リリースオーダー、直接出荷、譲渡指図、キット処理、返品処理、ほか
生産管理 資材能力計画(MRP)、部品構成(BOM)、配合表管理、製造プロセス計画およびシミュレーション、作業指図の作成およびレポート、生産現場管理、品質管理および耐性分析、そのほかの製造実施に固有の機能(MES)、ほか
表1 ERPソリューションの機能定義(Source:IDC Japan March 2007)
機能 代表的な機能説明
SFA リード追跡、アカウント/コンタクト管理、モバイルセールス、販売機会管理、パートナーリレーションマネージメント、販売分析/プランニング、ほか
マーケティング 広告管理/配信、リードクォリフィケーション、ブランド管理、キャンペーン管理/プランニング、ほか
カスタマーサービス 事例割当/管理、Webチャット、同期コラボレーション、同時ブラウジング、自動アシスタント、電子メール返信管理、フィールドサービス、ほか
コンタクトセンター 主にコールセンター機能を専門とするインフラストラクチャーベンダーおよびミドルウェアベンダーのアプリケーションを含む機能(例:CTIベンダーなど)、ほか
表2 CRMソリューションの機能定義(Source:IDC Japan March 2007)

 また、ERPやCRMソリューションのユーザー投資額による市場規模算出では、パッケージソフトウェア、サービス、ハードウェアなどの投資額を含んでおり、その詳細は以下の通りである。

内訳 図1 ソリューション投資額の内訳(Source:IDC Japan March 2007)

 ERPソリューション市場の動向を分析する上で「ビジネスプロセス」という概念は外せない。ERPパッケージが国内で注目され始めた1995年ごろから盛んに言われてきたのが「BPRをERPで実現」といった常套句である。BPRとは周知の通りBusiness Process Re-engineeringの略で、教科書通りに解説すれば、企業活動に関するビジネス目標を設定し、それを達成するために業務内容や業務の流れ、組織構造を分析、最適化することである。BPRを実施する過程で組織の見直しや事業の合理化、効率化といった改革が伴い、高度な情報システムが求められるなかで、ERPパッケージを活用してBPRを実現するというソリューションが当時のニーズにマッチしたという経緯である。

 以来、ERPパッケージを活用したソリューションビジネスは紆余曲折を経てきた。何よりも「理想と現実」の狭間で、ユーザー企業は多岐に渡る選択を余儀なくされ、結果的に多くの失敗プロジェクトを生んだことは事実である。「理想と現実」の中でも特に大きなギャップとなったのは、ERPの理想ともいうべき「全基幹業務システムの統合化」と、現実のERPパッケージでは基幹業務システムの統合どころか、業務適用率が低く現場の要求を満たすことができないという点であった。

 これに対応する手法が、アプリケーションの独自化(カスタマイズ、アドオン)である。では、どこまでならカスタマイズしても大丈夫なのか? アドオンで開発することの是非については、さまざまな視点から多くの見解を見聞きする。昨今、アプリケーションの業種対応化が進んでいるが、アプリケーションのみならず、ミドルウェア層においてもアプリケーションに依存しない形で業種リファレンスモデルが導入されるようになってきた。

 しかし、カスタマイズやアドオンについては、そのレベルや範囲の是非を問うよりも、きめ細かい業種や業務に対応できる柔軟性が提供されるのが本来の姿である。さらに、業種や業務を深堀りすれば、個社単位でビジネスプロセスに対応できる柔軟性と標準化を進めていくことがERPパッケージには求められている。

 一方、この10年の間に顧客サイドでも、自社開発型システムで部門最適化を志向する考え方から、ERPパッケージを標準的に利用することで導入期間やコストを抑えたいという考え方へと変化してきている。ERPパッケージを導入する際、独自に構築した自社開発型システムの代わりのパッケージとみるのではなく、ERPパッケージが本来持つ戦略的な「業務と経営手法」を取り込んでいく、という捉え方が根付いてきたのは事実である。大手企業の導入モデルからERPの長所と短所が浮き彫りとなり、ERPパッケージ自体の成長やITの進歩を伴いつつ、中堅企業向けERPソリューションとしてパッケージ機能の取捨選択、テンプレートの開発などが進められ、ERPパッケージは中堅企業へと浸透してきている。

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