新たなるメモリ技術、米IBMが披露

科学者は50年近くに渡り、データ記録にかかわる磁性材料とデータ格納を実現する可能性を研究してきた。磁気を操作するには、高価かつ複雑な設計、そして比較的大きな電力が必要になるという。米IBMは、これを打破する新技術を披露した。

» 2008年04月11日 14時28分 公開
[ITmedia]

 米IBMが進めているのは、高性能、大容量、低コスト、そして低消費電力を実現する「racetrack」と呼ばれるもの。同社は現地時間の4月10日、フラッシュメモリとHDDの特性を生かしたメモリの実現について、新たな兆しが見えたことを明らかにした。

 この取り組みは、米IBMフェローのスチュアート・パーキン博士をリーダーとする同社アルマデン研究所のチームにより進められており、「racetrack」(レーストラック)と呼ぶメモリ技術。この原理と研究成果について、米Science誌4月11日号で2つの研究論文が発表された。

 この技術で強調されているのは、一瞬で起動することができ、従来にない安定性と耐久性、そして低コスト化を実現できるという点。さらに、集積率の向上で大幅な大容量化も可能としている。

 例えば、このメモリ技術によってMP3プレーヤーなどの携帯用デバイスでは現在の容量の約100倍となるデータの蓄積が可能となり、「約50万曲の音楽や3500本もの映画を、従来よりも大幅な低コストかつ低消費電力によって格納できる」と発表内容の中で触れている。

 また、現在のデジタルデータの保存形態については主に二通りがあるといい、フラッシュメモリと磁気のHDDを挙げる。

 いずれも急速な進歩を続けているものの、依然としてHDDに1ビットを格納するコストはフラッシュメモリの約100分の1にとどまり、フラッシュメモリはこの壁を超えられない。現代では比較的低コストとなったHDDではあるが、多くの可動部品が存在するため、機械的な信頼性問題が今後も存在し続けるとIBMは指摘する。

 一方で、フラッシュメモリは読み取り速度が高速なものの、比較的書き込みが低速であり、書き込むたびに少量ずつ損傷し、その寿命に限りがある。

 研究が進められているracetrackメモリにおいては、可動部品がなく、機械的な磨耗を心配することがなくなる。電子スピン(自転)でデータ格納を可能としているため、寿命についてもクリアできるとしている。

 論文で触れられた成果には、racetrackにニッケル鉄合金(Ni81Fe19)の細線を使用したことを示されており、適切な長さでナノ秒長のスピン用の偏極電流パルスを用いる点がポイントの1つであるという。これにより、連続的に磁壁(磁性材料の磁気領域、または磁区の境界)の書き込みやシフト、読み出しが行えた点を報告した。

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