日本企業は世界の潮流に乗り遅れていないか? ――『未来をつくる資本主義』くつろぐ週末に本を読む

グローバル経済の大潮流を眺めれば、巨大なビジネスチャンスが見えてくる。「世界の難問をビジネスで解決する」――アメリカ発世界不況の懸念が高まっている中で、成熟・飽和した日本経済の担い手たちは、今こそ世界に目を向けるべきではないか。

» 2008年04月19日 08時00分 公開
[ITmedia]

 日本経済の成熟や少子化などを背景に、国内市場での競争を続けていても大きな成長は期待できない。国内に閉じた視点で新たなモノ・サービスの開発に取り組むだけでは、日本企業は世界と隔絶した「ガラパゴス化」や「パラダイス鎖国」を免れまい。競争の激しい「レッド・オーシャン」から未開の市場「ブルー・オーシャン」へ。そんな視点で世界を眺めるとき、あなたにはどんな可能性が見えるだろうか。

『未来をつくる資本主義』著者:スチュアート・L・ハート、訳者:石原薫、定価:本体2,200 円+税、体裁:四六判 上製 本文352ページ、ISBN:978-4-86276-021-0、発行:2008年3月、英治出版

 本書『未来をつくる資本主義』は、それを明らかにしてくれる。ますます関心の高まっている環境問題、貧困・飢餓、資源・エネルギー問題といった「世界の難問」の中にこそ、新たなビジネスの莫大なチャンスがあるのだ、と。

 著者スチュアート・L・ハート(コーネル大学教授)の問題意識は、まず、これまで世界経済の発展の原動力となってきた一方、テロリズムや環境破壊や所得格差など数々の問題をも生み出してきたグローバル資本主義に向けられている。実際、世界ではグローバル資本主義に対する不信や懸念はますます高まっているようだ。とはいえ、著者は反グローバリズムに与するわけではない。

 資本主義とビジネスという強大な力を、そうした問題の解決のために建設的に用いれば、この状況は打開できるではないか。そして著者はこう主張する。「この先十年間、商業史上最大級のチャンスが到来する」。

 世界中に40億人以上いるといわれる貧困層――所得階層の底辺=ボトム・オブ・ザ・ピラミッド(BOP)の人々。これまでグローバル経済の流れに取り残されてきたこの貧困層を資本主義経済の中に迎え入れることで、莫大な市場が生まれる。

 それだけではない。焼畑や森林伐採、非効率的な技術による工業化がもたらす環境破壊、これらの根本には貧困がある。途上国市場の開拓は、環境負荷を減らし、環境危機を乗り越える道にも通じているのだ。それは一企業や一国の利益を追求するだけでなく全人類の幸福と利益を追求することでもある。

 多くの犠牲を払って少人数のために富を生み出す従来の資本主義でなく、貧困国に新たな市場を創造し、彼らの生活の質を高め、経済と環境を両立させていく持続可能なグローバル資本主義へ。この動きを起こせるかどうかは先進各国の企業の戦略性と技術革新にかかっている。

 本書は、途上国経済に対してこれまで行われてきた、いわば侵略的・支配的な進出(これが現地の文化を破壊するなどして反グローバリズムの勢力を生んだ)ではなく、「現地に根ざして」ビジネスと市場を創造していくアプローチを提唱する。そして欧米企業は既に動き始めているのだ。

 翻って憂慮せずにいられないのが日本企業の動向だ。例えばインドやアジア・アフリカの各国では携帯電話市場が急激に伸び、通信インフラの普及が現地の経済に大きな波及効果を生んでいる。だが日本勢はこの流れに完全に出遅れており、国内の飽和市場で凌ぎを削るばかりだ。

 高い環境技術と環境リテラシーを持つ日本の企業は、より強く世界への貢献を志向し、この「未来をつくる」資本主義の新潮流に積極的に加わっていくべきだろう。それはビジネス上の最大級のチャンスでもあるのだから。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ