システムに何か不具合が起こったとき、もはや開発会社の責任では片付けられない。組織内の多くの人の意見を集約できる洗練された「システムの見取り図」作りが、使い勝手のいい、安いシステムの構築の鍵となる。
前回は、「システム開発に移る前に、発注者側で画面デザインを徹底的に詰めるべきだ」という話を書いた。「あれ? そうなの?」と思った読者の方が多かったかもしれないが、筆者は発注者側が行っておくべき当然の作業と考えている。
「システムは業務効率化のための道具に過ぎない」という考えは、いずれの読者も賛成してくれるだろう。そこで、「道具であるなら使い勝手が重要であるはずだ」ということになるが、その使い勝手の責任は誰にあるのだろうか。発注者側のシステム部門なのか、開発ベンダーなのか、はたまたシステムの利用者なのか整理されているだろうか。実例をみてみよう。
「みずほ証券によるジェイコム株大量誤発注事件」というのを覚えておられるだろうか。300億円〜400億円を超える損失が発生したこともあり、システムを運営している証券取引所に責任があるとか、いやいや開発を担当したベンダーの責任であるとか、そもそもの誤発注したことが原因だろうなどどして、現在裁判中の案件である。発生から2年半を過ぎても決着していない現実を見るに、残念ながら、システムの使い勝手の責任は極めて不明確なようだ。
裁判の中で「証券取引所から委託を受けた開発会社はシステム提供債務の履行補助者にあたる」という前提で主張がなされているのも興味深い。なぜなら、開発ベンダーが世界的大企業で、かつ屈指のシステム・インテグレーターであっても直接の責任者ではないと言われているのと同じだからである。公費を扱う以上、確実に任せられるところに発注しなければいけないという理由で、過去において、行政の世界では、大手ベンダーに開発を任せてきた。しかしこの裁判を見る限り、この考えは誤りであると明確に主張しているのである。つまり、発注者側は「発注者責任」を正しく認識し、責任を果たすために必要な作業を、開発ベンダーに委託する前に、実施しておかなければいけない時代となっているのである。
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