先日NovellからリリースされたSUSE Linux Enterprise 10 SP2は、サーバサイドの観点からは、Windowsサーバと連携させたLinuxサーバの運用を必要としているユーザーであれば今すぐにSLES 10 SP2のテストを開始するべきであると言い切れるものとなっている。
先日Novellから新規にアナウンスされたSUSE Linux Enterprise 10 SP2には、マイナーなものではあるが幾つかの有用な改善が施されており、その大部分はMicrosoft系のプロトコルやフォーマットに対する互換性を確保するためのものである。
今回のSUSE Linux Enterprise Server(SLES)10 SP2でサポートされたものの1つが、Windows Server 2008およびWindows Server 2003の完全な仮想化であり、Novell側の説明によるとシステム管理者は、こうしたWindows Serverのゲストを実在のマシン間でリアルタイムに移動させることが可能だともされている。このようにMicrosoft規格を完全にサポートした Windows Serverゲストを提供しているサードパーティー製仮想化ソリューションがSLESだけである背景には、MicrosoftとNovellの間のパートナー提携が存在しており、同様に現状でリリース候補の段階にあるWindows Server 2008 Hyper-VハイパーバイザもSLESを仮想ゲストの1つとしてサポートするようになっている。
そのほかにもSLESには、Xen 3.2仮想化ハイパーバイザが取り込まれている。
Microsoftとの相互運用性というテーマの追求はSUSE Linux Enterprise Desktop(SLED)10 SP2でも継続されており、例えば新たなSLED 10 SP2ではローカルドライブのNTFSパーティーションに対するリード/ライトアクセスがサポートされている。ただしこの機能は、オープンソース形態で提供されているNTFS-3Gドライバを使うことでほかのLinuxディストリビューションでも実装可能なものだ。
SUSE Linuxのサーバ版とデスクトップ版に共通する改善が、Active Directory(AD)に対する親和性の向上である。ただしこの分野に関しても、MicrosoftがネットワークサーバプロトコルをSambaなどのオープンソース系の活動団体に公開するよう強制されていることから、ほかのLinuxディストリビューションでも同様の機能を実装できるようになっている。そうは言っても、現状でMicrosoftネットワークとの親和性が最も高いのがNovellであり、ADネットワークの統合に関するMicrosoftからのオフィシャルなサポートを受けているLinuxディストリビューションはSUSE Linux以外に存在しないのも間違いではないはずである。
今回わたしは、SLED 10 SP1がプリインストールされていたIBM ThinkPad R61にてデスクトップ版SLED 10 SP2の実力を検証してみた。ところが既にインストール段階にて思っていた以上の手間が掛かってしまい、SUSEの管理ツールであるYaSTに対して SP2へのアップグレードを指示すれば残りの作業は自動で処理されるという訳には行かなかったのである。つまりこの場合は、まず既存パッチがすべて適用済みであることを確認した上で“Update to Service Pack 2 patch”によるアップデートを実行してから手作業にてYaSTから新規のSP2 Installation Sourceサーバに接続させ、product-sled10-sp2およびslesp2o-sp2_onlineパッチを適用した後にリブートさせるという手順を踏まなくてはならなかったのだ。これだけの手間を掛けるくらいならアップデート用メディアを(CD複数枚ないしDVD1枚分)ダウンロードし、これを光学ドライブ経由で実行させて指示通りにアップデートを進めた方が遥かに簡単に済んだはずである。このプロセスの詳細については、Novell SLED 10 SP2の導入ガイドのページを参照して頂きたい。
インストール完了後のSLEDをADベースのネットワークに接続させる作業については、従来のものより簡単化されていた。実際わたしが経験した範囲内で、Server 2008/2003ハイブリッド形式のAD/ドメインネットワークにラップトップからアクセスする際に遭遇したトラブルは今回が最も少なく済んでくれたはずである。またこのネットワークをいったんダウンさせて純粋なADネットワークとして立ち上げ直したところ、これをSLED 10 SP2で操作する作業も特に問題なく進行してくれた。
ソフトウェアユーザーとしての視点から見た場合における今回の最も重要な変更点は、OpenOffice.org 2.4 Novell Editionへのアップグレードであろう。例えば今回わたしは、そこそこ複雑な作りのExcelスプレッドシートがOpenOffice.org Calcにて実行可能であることを確認しているが、これはVisual Basic for Applicationsのマクロに対するサポートが向上してくれたおかげである。同様にImpressからは、オーディオとビデオの埋め込まれたMicrosoft PowerPointのプレゼンテーションが再生できるようになっている。
そのほかにもWriterからは、MicrosoftのOpen XML(Office 2007)フォーマットで保存された文章ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションに対する読み取りと書き込みが行える。なおこうした操作についてはOpenOffice.OpenXML Translator 1.1.1というスタンドアローン型プログラムを介することでも可能となるが、このプログラムが利用できるのはNovell版OpenOfficeのバージョン2.4だけであるとされている。
一方でSLED 10 SP2には1つの重大な問題が隠されている。このデスクトップには正常に動作するNovellクライアントが付属していないのだ。今でもバックエンドでNetWareを使用し続けているユーザーにとって、これは重大な問題を引き起こすはずである。この件に関しては、SLED 10 SP1クライアントを正常に動作させるためのパッチを可及的速やかにリリースするべきだろう。また簡単なコード編集くらいなら自分で行えるというユーザーであれば、自力での対処法も存在している。
今回わたしが使用したSLED 10 SP2は、その大部分が正常に動作してくれたが、通常のメジャーリリースに対して予想されるものより多くの“微調整”が必要だと感じられた。とは言うもののサーバサイドの観点からは、Windowsサーバと連携させたLinuxサーバの運用を必要としているユーザーであれば今すぐにSLES 10 SP2のテストを開始するべきだろう。それに対してデスクトップの観点からすると、数週間待ってある程度のマイナーなバグフィックスが済まされてからアップグレードする方がいいかもしれない。
Steven J. Vaughan-Nicholsは、PC用オペレーティングシステムとしてCP/M-80が選択され、2BSD UNIXを使うことがクールとされた時代から、テクノロジーおよびそのビジネス利用についての執筆活動を続けている。
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