耐障害対策の仕組みのひとつにDFSがある。DFSは、リンク情報を保持するルートサーバを設定し、別のサーバ上のフォルダをリンクすることで、自動的にリダイレクトできるものだ。また、フォルトトレランス機能によってルートサーバやフォルダを自動複製することにより、冗長構成にできる。ファイルに変更があった場合は、自動的に別のサーバに複製されるわけだ。
A社では、ファイルサーバにWindows Serverを採用していた。Windows Serverには、DFS機能がすでに組み込まれており、Active Directory環境であれば、DFSを有効にするだけでフォルトトレランスDFSが実現できる。ファイルの整合性を保つ必要があるので、どちらがメインとなるか、優先ルートサーバだけは決めておく必要があった。
メールシステムには、Microsoft Exchangeを利用しているが、Active Directoryによる冗長構成は、東京のドメインコントローラと大阪のドメインコントローラが自動的に複製処理を行い、メールアドレスの連絡先も自動的に複製する。DNSも、東京と大阪で冗長性を持たせるようにしている。メッセージルーティング処理を行い、普段は大阪のメールサーバが送信用サーバとして稼働し、東京のメールサーバが受信用サーバとして稼働している。もし大阪のメールサーバに負荷がかかったときには、東京のメールサーバがメッセージの送受信を行う。
いつ来るか分からない災害のためだけに導入したわけではなく、普段も負荷分散の恩恵を得ることができたのだ。
このように、ファイルとメールシステムは普段から冗長構成になっていたので、メンテナンスのためにシステムを停止することがあっても、サービスの停止は極力避けることができる。しかし、個人のメールは残念ながら自動複製とまではいかない。過去のメールはバックアップから戻す必要がある。震災直後であれば、数日間は安否確認メールが主流だろうから、過去のメールは落ち着いてから大阪のサーバに復元すればいいだろう。
A社が契約するホスティング業者は、日本のみならず海外にもデータセンターを所有している。これも救いとなった。
A社の受発注システムは、B to Bによるオンライン取引が随時行われている。稼働することによって利益を生み出すサービスなので、わずかなダウンタイムも許されない。そこで神田は、社内システムだけでは完全な冗長構成が取れないと判断し、ホスティング契約をした。
ホスティング業者選定の際は、単に低料金だからという判断をせず、「サービスレベル契約(SLA)」を完備する業者を選定した。インターネットでの常時サービスを保障するために、負荷分散も兼ねて複数の地方にデータセンターを持ち、ミラーリングを行っている業者である。この業者の場合、海外に拠点があり、グローバルな規模でミラーリングをしているという。
ホスティングの管理も、東京と大阪からリモート接続できるようになっている。万一、東京の端末からアクセスできなくなったときは、大阪で作業の代行をするためだ。
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