米Gartnerの最上級アナリスト、ロイ・シュルテ氏はSOAは今後広くシステム構築手法に使われるとする一方、現状では技術的な課題も多いとしている。
「SOAにはまだ問題点が多い」
こう話すのはSOA(サービス指向アーキテクチャ)の名付け親というガートナーの最上級アナリスト、ロイ・シュルテ氏だ。シュルテ氏は1996年、SOAを業界に広めるきっかけになったリポートをイェフィム・ナティス氏と共同執筆した。同氏にSOAを用いたシステム開発の利点や課題、今後の展望について聞いた。
ITmedia SOAの名づけ親と呼ばれる経緯について教えてください。
シュルテ氏 SOAという言葉はGartnerが付けたものです。1996年のわれわれのリポートに初めて登場しました。しかし今のSOAとは違っていました。クライアント/サーバの通信プロトコルやメタデータなどは、ユーザー企業によってさまざまなものを使っていました。Webサービスの登場で、現在のSOAの姿が定まったといえます。
ITmedia 技術的な観点で、SOAは今後変化がありますか。
シュルテ氏 改善されたり洗練されたりするかもしれませんが、今後10年以上、あまり変わらないと考えています。メインフレームのシステムをリプレースし、新たなアプリケーションを構築する際の手法としてSOAが使われるでしょう。
ITmedia SOAに技術的な欠点などはないでしょうか。
シュルテ氏 たくさんあります。3点挙げましょう。メッセージングの際にキューイングできない、パブリッシュとサブスクライビングの標準が定まっていない、プログラミングが原始的である点です。
1つ目のメッセージングの際にキューイングできないという欠点については、通信プロトコルであるSOAPに(送信するデータをいったん保管して相手の処理の完了を待つことなく次の処理を行なう)メッセージキューイング機能を持たせなくては解決しません。そのほかの2つは解決の糸口が見えています。
パブリッシュとサブスクライビングの標準となる候補は2つあります。Microsoftが推進するWS-EventingとIBMのWS-Notificationです。折り合いを付ける必要があるでしょう。
プログラミングが原始的という課題については、SCA(Service Component Architecture)、マイクソフトが提供するモデル駆動開発の手法に基づいた複合アプリケーションの開発構想である「Oslo」、Javaアプリケーションを構築するSpringなどが登場してきており、改善が見込まれています。
ITmedia SOAの欠点を3つ挙げていただきましたが、これらはパフォーマンスやセキュリティなどに影響してくるのでしょうか。
シュルテ氏 いえ、影響するのはパフォーマンスやセキュリティではありません。主にデータの一貫性に問題が出てきます。データの蓄積と転送というプログラムの処理の間で、送ったはずのメッセージが途中で消失する可能性があります。通信プロトコルであるSOAPでキューイング機能があればいいかもしれませんが、議論はされていません。
ITmedia SOAによるシステム構築の利点を改めて教えてください。
シュルテ氏 SOAの最大のメリットは、既存のアプリケーションの変更に掛かる時間が早くなることにあります。結果として、ビジネスプロセスの変革を早く済ませることができるようになります。
ITmedia SOAが実現する機能として個人的に注目しているものはありますか。
シュルテ氏 SOAによるシステム構築で注目している機能の1つにビジネスダッシュボードがあります。いわゆるBAMです。営業部長などが、変動する自社の売り上げ情報をリアルタイムに把握できるようになります。例えば、ある時間帯に売上高が急減したとしましょう。BAMがあれば原因を究明して「競合他社がその時間に大幅な値引きをした」などの原因を把握できます。営業部長は、こうした動きをビジネスダッシュボードで把握し、自社も値下げに踏み切るなどの手を打つことができます。
従来ネットワークや発電の管理などには用いられていましたが、営業の従来型システムなどにはあまりなかった機能です。視覚的で、情報がリアルタイムで頻繁に更新され、ビジネスマンの創造力をかき立てます。BIの一種ともいえますが、通常のBIのようにデータベースやデータウェアハウスからデータを取得するものではありません。
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