さらに別の経営者との会話。
筆者 得意先から値下げ要求なんて来ますか?
「来ますよ。もう恒例だね」
筆者 大変ですね
「まあそうだけどね。でもね、何年も同じやり方でモノ作っていたら、そのうちに注文する方も原価が分かってくる。そうしたら値下げしろって言いたくもなるよね」
筆者 私でも言いますね
「だからさ。工夫して生産方法変えたり、機能追加提案したりして原価が分からないようにするの。そうすればしばらくは持ちこたえられるからね」
得意先の値下げ要求と納期短縮要求は定常化している。期初めに下請けが呼び集められて、今期の値下げ目標は○%ですのでよろしくお願いします、などと通告を受けるのも日常的な光景である。断れば切られるし、受ければ自らの首を絞めることになる。そうした日常を送っているのが中小企業である。
さらにさらに別の経営者との会話。
「齋藤さん、これ見てくさいよ」
筆者 おっ、スゴイ。注文伝票、去年に比べて倍の厚みじゃないですか。儲かってしょうがないでしょう
「それが全然違うの。注文は倍に増えたのだけどロット数が半分になったわけ。掛け算すれば注文量は変わらないのよ。増えたのは手間だけ」
値下げ、納期短縮と並ぶのは少ロット化である。月1度の発注が、週1度になり、3日に1度が毎日なり、午前、午後2回納入せよと来るのである。
その上、時としてヒット商品が生まれ、爆発的に売れることがある。そうした時には速やかに増産にも対応しなければならない。変量生産にも対応できる柔軟性も求められるのである。
今まで見てきたように製造系の中小企業では、
に加えて少し前は、
さらに最近では、
にも見舞われている。
自動化、システム化が難しい製品が手元に残っているということは基幹業務のIT化にとってハードルが高くなったということである。
それ以外の、製品付加価値向上や得意先要求対応、コスト低減、人材対策などは各企業の工夫や改善で乗り切ろうとしているが決定的な切り札はない。IT導入による定型業務の自動化とリードタイム短縮は重要な選択肢となりうる。中小企業なんて大企業に比べれば生産量は少ないし、工程も単純。大企業の生産システムを移植すれば楽勝と思っているベンダーもいるのではないか。
それは違うのである。
大量生産がきかない分、中小企業のシゴトは複雑なのだ。
大企業に適用したシステムを焼きなおして中小企業で使おうと思ってもうまくいかないのである。
IT産業にとって、意外に中小企業は手強いのだ。
さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。
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