「失敗プロジェクト」と「CIOの首」の数だけ経営者は賢くなるNext Wave(1/2 ページ)

調査によると、米国企業のCIOの勤続年数は18〜36カ月程度しかない。CFOの平均勤続年数は5年なので比較するとかなり短い。これは多くの米国企業で、失敗プロジェクトの責任をとらされ、CIOが更迭されてきたことを暗示している。

» 2008年08月18日 18時27分 公開
[幾留浩一郎,ITmedia]

CFOの直属となるCIOとは

 CIO(Chief Information Officer)も最近よく使われるようになっている新しい用語だが、@ITの用語辞典で調べてみると、「企業において自社の経営理念に合わせて情報化戦略を立案、実行する責任者のこと。『最高情報責任者』『情報システム担当役員』『情報戦略統括役員』などさまざまな訳語が充てられる。米国の企業(株式公開企業)では取締役会の監督の下、経営を行う者をチーフ・オフィサー(CxO)と呼ぶ。CIOはその1つで、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)などと並んで、企業経営陣の中で極めて重要な役割を持つとされる」とある。

 CIOは、文字通り企業組織ではCFOなどと並んだ経営層の1人でCEOの直属の位置にある、少なくとも、米国の企業ではそうだと思っている方が多いのではないだろうか。

 私はこれまで米国で色々な企業の方々と話をしたが、CIOはCFOの部下と位置づけされている企業の方が多い印象があったので、実は用語の定義には若干の違和感を持っていた。

 ComputerWorld誌が2005年に行った米国企業のCIOに対するアンケート調査の結果を見ても「自社の組織でCEOの直属の位置にいる」と答えたCIOは回答者全体の4割程度である。残りの6割の企業ではCFOの部下という位置づけされているようである。

 これは、企業の中でIT部門は「コストセンター」なのか「プロフィットセンター」なのかという考え方とも関連している。もちろん業種やタイプによりレベルの違いはあるが、大まかにIT部門をコストセンターと考える企業ではCIOはCFOの部下として置かれ、プロフィットセンターと考える企業ではCEOの部下となっているようである。

本来の姿に近づきつつあるCIO

 調査会社のガートナーによれば、米国で企業の売上げに占めるIT投資金額の比率は1980年代には低下の一途であった。しかし90年代の中ごろから逆に増える傾向へと転じている。これは企業にとってIT投資の目的が単なる業務コスト削減から、売上げ増や競争力強化などの戦略的な目的へと、少しずつ変わってきた傾向を示している。

 21世紀に入り、インターネットが普及しビジネス環境が急速に変化している最近では、その傾向はますます顕著になり変化も加速している。企業組織でのCIOの役割もかなり急速に変化しているようだ。その意味ではCIOは本来の用語の定義にだんだんと近づいている過程にあり「かくあるべし」という定義なのだろうと思う。

 最近ある友人(米国人)から、彼が社外役員を勤めるある企業の運営がうまくいかず困っているという話を聞いた。友人は最近思い切って新しいCIOを雇い、そのCIOをCEOの直属とし、色々と経営陣の意識を変える努力をしたところ、それまで滞っていた運営がうまくいくようになったという。最近ではこの会社の経営陣は何をするにもCIOに相談することが多くなったそうだ。この友人の企業はITとは直接関係のない業種なのだが、それでも最近では、ビジネスを効率よく運営するにはIT技術の知見が不可欠であるという認識が強くなっているようだ。

誰が失敗の責任をとるか

 多くの企業にとってITは戦略的に重要なもの、つまり経営層が積極的に関わるべきものへと変ってきている。少し逆説的なタイトルではあるが、Harvard Business Review誌の、「IT部門にまかしておくには重要過ぎる6つの判断」を紹介する。

(1)IT予算がいくら必要か

 IT部門をコストセンターとしていた従来よく使われたのは、売り上げの一定割合をIT投資として予算化し、その使い方はIT部門が決めるという考え方である。しかしIT予算も経営判断とすべき重要なものが多くなっている。

(2)どのITプロジェクトを実行するか

 社内のいろいろな部門からIT部門へ多種多様な要求が来る。しかしその全てを満足することは現実的には不可能で、選択しなければならないが、その判断はIT部門に任せるには企業にとって重要過ぎるものが多くなってきている。それらは経営層が判断すべきである。

(3)どのIT機能を全社レベルにするか

 一般にIT部門は全体でのコストや運用面の手間を気にするあまりに「全社共通」にこだわり過ぎる傾向がある。その意見も聞き一方で予算の制約をして実行させると結果的に中途半端なシステムしかできない場合が多くなる。状況次第では個別の特設システムや複数の標準技術を前提に考えた方が効率よい場合もある。この選択もIT部門だけでは難しく戦略的な判断と考えた方がよい。

(4)サービスレベルをどの程度とするか

 ITでは「機能」以外に「サービスレベル」が重要な要素である。機能だけを実現しても十分なサービスレベルが確保されていないシステムは全く使い物にならない。逆にサービスレベルが高過ぎると大きな無駄を抱える結果にもなってしまう。どこが最適なポイントなのか。この選択もIT部門だけでは難しいものである。

(5)セキュリティやプライバシー問題のリスクをどこまで考慮するか

 これらは目に見えにくく非常に複雑で難しい問題が多い。かつSOX法などによって、企業にとっては極めて大きな影響を及ぼす内容のものが増えている。一般に安全性を追求し過ぎると非常に使い難くかつ高価なサービスになってしまう。逆に費用や利便性を重視すると安全性が落ちるというトレードオフの関係にある。IT部門は立場上どうしても安全性重視の判断しか行わない傾向があるので、どのポイントを選択するかは企業にとって極めて重要な経営判断となる。

(6)誰が失敗の責任をとるか

 ITに関わる判断は非常に重要で難しいものが多くなっている。また環境の変化も激しく当初の見込み通りにいかず失敗することも多い。プロジェクトの始めから最後まで、できるだけ経営層が状況を確認しながら注意深く進めるべきである。もし失敗してもその責任をIT部門だけにかぶせるのは不適切である。経営層の判断としその責任も経営層が負うべきである。

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