真夏の夜にはトラブルが憑きもの、いや付きもの悲しき女子ヘルプデスク物語(3/4 ページ)

» 2008年08月22日 08時00分 公開
[鐙貴絵,ITmedia]

恐怖の「あああああああ」!

 静かな間が空く叔母の家。すると、いとこが話を続ける。

いとこ そういえば、パソコンも変でね……。

 だからさ、わたしはそういう話、キライなのよ。でも次の瞬間。

わたし パソコンおかしいの? どんなふうに?

 思わず聞き返すわたし。ああ、IT機器が「変」とか「おかしい」という言葉に敏感に反応してしまう自分が情けない。

 叔母もいとこも、わたしの仕事内容を知っている。普段なら“PCが故障?”というようなことがあると、すぐに電話をしてくる。でも今回はそれが無かった。普段と違う行動をされると、わたしも背筋が寒くなる……。

 PCのスイッチを入れ、ワープロソフトを起動する叔母。そして彼女の動きがぴたっと止まる。

わたし ええと、どこが変なのでしたっけ?

 わたしを見つめ、ゴクリとつばを飲む叔母。

叔母 だれも押していないのに文字が入るのよ。勝手に文字が……。

 ええっ!?

 それはちょっと怖い。帰ろうかしらと思ったとき、叔母がすうっと手を動かした。その手はゆっくりと、しかし確実にキーボードに伸びる。そして叔母の「細く」とも「しなやか」とも言いがたいその指は、キーボードの「A」のキーを軽く押して、すぐに離した。

 すると画面には「あああああああ」と表示されたではないか!

わたし ……。

 あんた、さっき「だれも押していない」って言いませんでしたか? と突っ込みを入れる前に叔母が騒ぎ出す。

叔母 見たでしょ? 誰も押してないのに、文字が入るのよ。怖いわあ……。

 まだ言うか。わたしには「誰も押してない」というそのセリフのほうが怖いよ。


 さて、説明しなくてもお分かりですね。「チャタリング」が起こっているのだ。キーの接点が劣化することによって、1回だけの打鍵であるにもかかわらず細かいキー入力が何度も起こったと誤判定されてしまい、同じ文字が複数回入力される。要は故障である。

 確かに叔母の家のノートPCは(ノートPC、も)少々古いものである。OSもWindows 98だし。

 そういえば、聞いたことがある。人間は自然と、思い込みを強化する方向に向くらしい。例えば、ほかの車は何百台と見ているにもかかわらず、偶然にパトカーを3台続けて見てしまうと、「今日はパトカーを良く見る日だなぁ」と思ってしまう。で、1度そう思ってしまったら、次に偶然パトカーが通り過ぎた時に「ほら、『また』パトカーが通り過ぎた。やっぱり今日はパトカーが多いんだ」と考える(自分の思い込みを強化してしまう)のだ。

 彼女たちにも、それが起こったのだろう。テレビに映し出された「人の横顔」が怪奇現象に感じられた。その直後にチャタリングが起きるようになったから、「『また』怪奇現象が起こった」と思い込んでしまったのだ。

 すると、テレビの“横顔らしきもの”も怪しい。テレビの電源を入れてみるわたし。

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