プロジェクトをプロセスの中に入れるなIT Oasis(1/2 ページ)

企業にとって、大規模なIT導入はプロジェクトである。このプロジェクト遂行の意思決定の過程で、日常の業務プロセスの中の人たちが大きな位置を占めるといろいろな問題が起こってくる。

» 2008年09月17日 12時52分 公開
[齋藤順一,ITmedia]

ベンダー決定のプロセスと実情

 最近、CIOの必要性が叫ばれている。情報システム部(以下、情シス)との違いは何だろうか。

 会社にはプロセスがある。プロセスとは規則や基準に基づく手続によって、定常的に遂行される業務のことを言う。狭い範囲では課業と言ってもよい。情シスはプロセスの中の組織である。

 ある中堅企業のITシステム開発にお付き合いした時のことである。

 この会社は、名前は違うが情報システム部に相当する部署があり、担当者はIT調達やシステム開発に従事するほか、社内のPCヘルプデスク的な仕事に就いていた。今回は規模の大きなITシステム導入ということで情シスの支援をする、というのが筆者の立ち位置だった。

 IT戦略も定まり、RFP(提案依頼書)を発行し、ベンダーから提案書をもらってベンダーを決定するフェーズに入った。この場面では評価基準を定め、評点の多いベンダーに依頼するというのがセオリーのようなものであるが、自治体の入札などと違って民間企業ではそう杓子定規には決まらない。そもそも、体積と重さのように特性の異なる要件を合理的に重み付けして積算する手段がないのである。ツブあんとこしあん、あんの重さ、甘さ、噛みごたえやのど越し、こういった物を数値データにして、どっちの饅頭が美味しいか決めろというようなものである。

 むしろ、定性的な評価を積み重ね合意に至って、意思決定をすることの方が多い。たいていの場合はベンダー決定に参画する人の意思というのは不思議なほど一意に決まる。衆目の一致するところのベンダーが選ばれるわけだ。ベンダー決定にはA、Bの2社が残った。そこで、情シスは大手ベンダーA社を強力に推薦した。A社はB社に比べて5割ほど高い見積であるし、要件定義後、それ以降の確定見積もりをしてトータル金額を決めるという提案であった。大手ベンダーによく見られる、ベンダーにとってはリスクが少ない方式である。

 私は独立系B社を推した。RFPにはよく対応していたし、値段も適当だ。最終的には情シスが社長を説得してA社が採用になった。あとでA社は情シスに対し、導入後の支援も提案していたことが分かった。A社は大手ベンダーであり、任せておけば大丈夫という安心感があった。信頼感ではない。丸投げしても何とかやってくれそう、という部分が大切なのだ。そうであれば彼らと組んでシステム開発をしたほうが、情シスにとってリスクは少ない。情シスにとって重要だったのは投資におけるリターンとリスクではなく、情シス内のライフサイクルにおけるリターンとリスクだったのである。社長は経営の立場で投資判断をすべきだが、ITに関して専門的な知識を持ち合わせていないため意志決定ができない。そこで情シスに意思決定権を移譲し、情シスは経営の立場ではなく、課業の立場で意思決定をしたわけである。

 つまり、プロセスサイドの人間に経営判断を委ねるのはそもそも無理ということなのだ。

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