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新製品普及の壁「キャズム」――売れない理由を科学する戦略プロフェッショナルの心得(2)(2/2 ページ)

» 2008年09月19日 09時09分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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 このように、初期採用者から初期多数採用者の間、普及率約15%の部分に、普及のための壁があります。この壁は「キャズム」と呼びます。キャズムとは英語で「溝」とか「割れ目」という意味です。最初は順調に普及してきた新製品が突然落ち込んでしまう、まさに「落とし穴」です。

 これはハイテク関連企業のバイブルといわれる著書「キャズム」で、マーケティングコンサルティング会社の代表であるジェフリー・ムーア氏が紹介した「テクノロジーライフサイクル」というモデルです。

 このキャズムを超えることが、新製品が普及する際の大きな課題になります。先の新製品が普及しないパターンも、このキャズムを超えられなかった例です。

 テクノロジーライフサイクル上の位置が異なる顧客は、振る舞いが全く異なります。その顧客の振る舞いの違いに対する企業側の戦略や戦術も、大きく変えていかなければなりません。

 例えば革新的採用者や初期採用者に対しては、先進的な技術情報を手厚く提供することが重要です。その結果、その技術的に優れている点が自社にとってメリットがあると初期採用者が判断できれば、ある程度リスクがあっても購入に踏み切ります。

 一方で、初期多数採用者に対しては、技術情報の提供よりも、顧客事例やサポート体制の整備と充実が重要になります。その結果、既にリスクが軽減されていることが納得できれば、彼らは購入に踏み切ります。

 新製品を出してから一貫して同じマーケティング施策を展開し続けても、なかなか本格的な普及につながらない理由が、ここにあります。新製品を出して最初の顧客に採用してもらう段階、初期採用者に導入してもらう段階、本格的普及につなげる段階で、それぞれ必要とされるマーケティング施策は異なるのです。

 この節の最初に紹介した例では、顧客が新製品を活用したサービスを実際に開始された時点で、わたしたちも実現された革新的なサービスを多くの顧客や社内社外のセールス部隊に積極的に紹介しました。新製品や新サービスの展開を考えた場合、現時点で対象となっている顧客が、テクノロジーライフサイクル上でどこに位置するのかを理解し、マーケティング施策を修正しながら展開していくことが重要です。

(注)本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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