CRMの新潮流

「兵糧攻め」でデータ入力促す――成功するCRM導入術CRMの新潮流(2/3 ページ)

» 2008年10月29日 18時38分 公開
[吉田 融正(ブリッジインターナショナル),ITmedia]

営業担当者がデータを入力しない

 幸いにも、理解があり勉強家のトップのトップダウンでCRM導入が決定して、職人気質の営業管理者が何らの形でCRM導入にやる気をだしたあとに、CRM成功のための最大の壁が立ちはだかる。それは何か。

 「営業担当者が営業活動情報を入力しない」ことである。営業がデータを入力しないとCRMは機能しない。「入力しない」ことにも複雑な理由が存在する。まず営業担当者の特性だ。営業担当者は外にいることも多く、また概してデータ入力の作業などは性に合わないというタイプが多いのではないだろうか。中には営業活動そのものを自分以外の人には教えたくないと考える営業担当者もいる。これは前述の職人気質にもが関係ある。

 営業活動はすべて自分自身で考えてやるのが基本。社内のサポートが必要な局面だけ自分から要求をし、その結果にも自分が責任を持つといった考え方が主流だ。自分以外の人間が営業活動に口を挟むべきなのは、自分の上司だけと思っている人も多くいる。またその上司も同じ思考の可能性の確率は高い。

 日本は欧米と比較して、終身雇用が基本である点もデータを入力しないということに影響がある。欧米では雇用の流動化は当たり前。条件の良い会社に右から左に移籍し、はてまた「出戻り」というのも珍しくない。よって、企業は営業担当者の営業活動の状況を会社に常時報告させないと顧客情報を会社として担保できない状況にある。営業担当者が競合企業へ転職した際に、会社としてその人の維持していた見込み客情報がそのまま競合他社に渡ってしまったら大変だ。

 欧米の雇用環境においては、営業担当者が活動データを入力することは当然の義務である。企業側も「営業活動データは会社の資産である」という考えに則り、それを業務標準として厳しく指導するのは当然の流れだ。欧米では、CRMのような仕組みはオペレーション上必要であり、事業を継続成長させるためのツールとして必須である。

 営業担当者もそういった仕組みで動き、CRMなどの仕組みに自分の仕事をインプットしないと評価されないという考えが主流なので、導入にそれほど骨を折らない傾向にある。

 一方、日本では長いこと終身雇用制度が主流だった。営業担当者が転職し、場合によっては競合会社に移り、顧客や見込み客を持って行ってしまうなどという心配はあまりなかった。その人の手帳やノートに営業活動や顧客情報が記録されており、担当者変更の際には手帳をベースに次の人へ引継ぎをすれば問題ない。営業データの取り扱いに関しては欧米のようなシビアさは持ち合わせていない。

 日本の営業現場は暗黒大陸のようだ。営業現場は、営業担当者が自然と築いてきた城壁のようで、その見えない世界で、秘密の情報を持っていることにある種の存在価値を見出す傾向がある。

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