IBMの新製品に見る日本のメインフレーム市場伴大作の「木漏れ日」(2/3 ページ)

» 2008年10月31日 18時51分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

クラウドとの切り分け

 ちょっと話を横道にそらすが、IBMが力を入れているのは前述のようにグリッドであり、その技術をベースとした「クラウド」だと思ってきた。

 また、それに使用されるRISCプロセッサ「Power」、Powerを搭載するpやiシリーズに力を注いできた。zシリーズに使用されているチップも基本的な部分でPowerの技術が使われている。

 一方で、IBMはIA/32を無視しているわけでもない。その典型的な製品が「Blade Center」だ。わたしはこれがクラウドを構成するシステムの本命だと思っていたが、この市場におけるIBMのリーダーシップはちょっと疑わしくなってきた。事実、インテルCPUを搭載した競争の激しいx Systemに対しては力が入っていない。この辺のIBMの力の入れ方が異なるのは恐らく製品の競争力によると思っている。

 ブレードサーバ市場はHPが事実上唯一のライバルだ。ターゲット市場もサーバ統合と全く同じだ。この市場における競合は今のところ、IBMが絶対有利だとはいえない状況だ。もう1つ、x Systemが対象としているIA-32単体サーバ市場はDellをはじめとして数多くの競合企業があり、IBMはプレーヤーの1つにすぎない。

 IBMは、巧妙に競争を避け、競合他社と同じ土俵で勝負をする危険を避けている。その結果、クラウドに使用する主要システムの構成がIntelかPowerのどちらを選択するのかますます分からなくなってしまった。

 クラウドはIBMの今後の戦略の中枢に置いている。データセンターにIBMのクラウドシステムを導入してもらうことにより、ライバルを一瞬の内に蹴散らすはずがこれでは誰からも信頼を得られない。

 恐らくIBMはその矛盾に気づいたのではないだろうか。IBMは、クラウドを本格展開する前に、z10BC投入することにより、とりあえず、企業内サーバの統合を目指したのではないだろうかという仮説に行き着いた。

やはりクラウドは難しい

 IBMがGoogleとクラウドで提携を発表してほぼ丸一年が経過する。IBM、Googleともに競って世界各地にクラウドコンピュータセンターを建設している。

 しかし、その利用はいっこうに進んでいない。むしろ、後発のアマゾンEC2のほうが使い勝手の良さで一般の支持を受けている。これはGoogleとIBMにとってはショックだったのではないだろうか。

 クラウドを巡るこのような状況を考慮すると、IBMはクラウドが本格的に一般に受け入れられる前に、何らかの手を打つ必要があると判断するのは極めて自然だ。わたしの仮説が証明する可能性は高い。IBMのプレゼンスが大きい超大企業で使用されているさまざまなIBM以外の製品を駆逐する――。それがz10BCに与えられた重大な使命だ。

 当面、IBMは大手ユーザーに既に導入されているオープンシステムを駆逐したと考え、その武器としてz10BCを位置付けたとしたら、今回の発表は極めて納得できる。

長期戦略

 もう1つわたしが興味を持って見つめているのがメインフレーム市場だ。この市場でIBMは世界的に60%以上という圧倒的なシェアで市場を支配している。本来、z10BCは、この市場でライバルの市場を奪い去る役割を担っているはずだ。メインフレームが全サーバ市場で大きなシェアを持つ特異な市場構造を持つ日本は、IBM全体から見ると目の上のたんこぶのはずだ。できればライバルを駆逐したいと思っているはずだ。

 ところが、メインフレーム市場で日本のベンダーの存在は気にはなるはずなのに、今回のz10BCの投入でそれほど大きな期待を持っていないようだ。

 わたしの見るところ、IBMは本気で日本市場を席巻しようと思っていない。もし、本気なら、記者会見の席上で、記者が指摘した米国での価格10万ドルに対し、日本IBMが席上で発表した日本での価格2500万円は差が大き過ぎる。

 IBMが本気で日本市場を制圧する気持ちなら価格を1800万円程度に設定したはずだ。為替リスク、日本語のドキュメントやマニュアルの整備、日本人スタッフのトレーニングを含めるとこれぐらいが妥当な価格だ。なぜ、IBMはそのような値付けをしなかったのだろう。

 それは、まだ日本のメインフレームベンダーの息の根を止めるには時期尚早だと考えているからに違いない。国産ベンダーは、顧客と合理的な説明で片付かない関係で成り立っている。それを突き崩すのはまだ少し時間がかかると考えたのだ。

 しかし、エントリーモデルで2600万円というz10BCの価格設定は国産ベンダーにとって、十分脅威だ。日立、富士通、NECの各社は毎年おおむね200セットから300セットのメインフレームを販売している。また、メインフレームに関連する部署に各社ともソフト、ハードで数千人が従事している。年商に換算すると恐らく各社はおしなべて数千億円の売り上げを上げているはずだ。

 z10BCの今回の価格設定で、国産ベンダーは、メインフレームの値下げを余儀なくされる。国産ベンダーはメインフレームビジネスから生じる利益のほとんど失ってしまう。結果、国産ベンダーの体力は確実に失われていく。

 IBMは日本企業がその事態に陥るのを待っている。やがて、開発余力を失なっていくのを待っているに違いない。営業担当者を増やして、販売活動を今より活発にしなくとも、相手は確実に弱っていく。それを待って、ユーザーが国産ベンダーを見限り、IBMに救いの手を求めてくると見ているのだろう。

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