MSのバルマーCEOがクラウドにかける思いを熱弁赤いネクタイでAzureへの気合い十分

マイクロソフトが開催した開発者向けのフォーラムで、来日したスティーブ・バルマーCEOは自社のクラウドOS「Windows Azure」を紹介。独自の口調でクラウドについて熱弁する中、開発者の声に耳を傾ける誠実な一面も垣間見せた。

» 2008年11月06日 03時00分 公開
[杉浦知子,ITmedia]
米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO 米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO。ほかのクラウドプレーヤーに話がおよぶと、EC2上でWindows Serverのサポートを開始したAmazonには一定の評価を示しつつも、Googleについては、「Pythonのツールがあるだけ」とGoogle App Engineを酷評した

 「開発者は“ユーザーが夢中になれる”ものを作るべき。それがわたしの見解だ」――来日している米Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは11月5日、開発者向けのフォーラム「Microsoft Developer Forum 2008」に登場し、自身のこうした考えに対してプラットフォームとしてMicrosoftがどうかかわってくるかを説明するとともに、クラウドのプレーヤーとしてのMicrosoftの方針、およびそれを支える新たなプラットフォームとなる「Windows Azure」について語った。

 PC向けのWindows、サーバ向けのWindows Server、スマートフォン向けにWindows Mobileを提供してきたMicrosoft。先日発表したWindows Azureはそうした製品のサブセットではなく、クラウド向けに開発したものであることをあらためて強調した。

 また、Windows Azureは既存のWindowsアプリケーションをクラウド上で実行するためのプラットフォームであり、Microsoftとしてはプラットフォーム間におけるアプリケーションの互換性を今後も担保していく姿勢を見せた。「一度アプリケーションを開発すれば、ユーザーは自分が望むプラットフォーム上でそのアプリケーションを動かすことができるような環境を作りたい」とバルマー氏。まるで、Javaの世界でよく口にされた“Write once, run anywhere”が再び日の目を見たようにも思えるが、中期的にはさまざまなアプリケーション、さらにはミドルウェアまでクラウドから提供可能になることを示唆した。その根底にあるのは、「ソフトウェア+サービス」であり、それを自社の製品で証明していくことが予想される。

 また、ソーシャルネットワークやソーシャルコンピューティングといういわゆるWeb2.0的な概念がWindows Azureに取り入れられることになると説明。同じような概念をActive DirectoryやSharePointに対しても取り込むことで、人間の関連性に強くフォーカスするようなソリューションが生まれるのではないかと期待しているという。

クラウド成功の秘訣はSLA

 講演に続き質疑応答に移ったところで、会場から「エンタープライズシステムで利用されるクラウド環境のSLA(サービス品質保証契約)について、どう考えているか?」と質問が寄せられた。クラウドコンピューティングは、インフラをアウトソースする形態といえる。企業の中にあるサーバではなく、インターネットの先にあるサーバでサービスを展開するということは、ある部分で他者(この場合はクラウドプレーヤー)にゆだねる部分が生じることになる。そのインフラが安定して稼働するかは自分たちの力がおよぶところではないからだ。これはリスクにほかならず、だからこそその程度を見極めるための指標の1つとしてSLAが示されている。

 しかし、クラウドプレーヤーにとってさらに問題なのは、顧客がクラウドに対して重度にSLAを求めてしまうことである。そこには、他者のインフラであるがゆえに、十分すぎるほどのSLAを求めることで安心したいという思いがある。例えばAmazon EC2では99.5%のSLAを保証しているが、これは一般的な企業のシステムと比べても遜色(そんしょく)ない稼働率である。企業内システムであればこれで満足しても、クラウドに対してはそれ以上を求める傾向が強い。それ故、クラウドはSLAに対してよりアピールして無用な不安を取り除いていく必要がある。

 バルマー氏は、「真にクラウドが成功するには、テクノロジーのセットとビジネスモデルがあり、かつSLAを達成できるかどうか」とSLAに対する考え方を示した。続けて、Azureでは1つの(高い)SLAを達成するだけでなく、値付けなどが異なる複数のポリシーをサポートするのが鍵となるとした。

エンドユーザーのための開発を

 別の開発者は、「カーネルモードで動作するデバイスドライバにデジタル署名が必要となり、個人での開発が難しくなった」と訴えた。Symbianの研究担当副社長デビッド・ウッド氏などからネタにされることもあるほど、開発者に対して日ごろから惜しみない賛辞を贈るバルマー氏。そんな同氏は、この質問に対して軽く驚いた表情を見せ、わざわざメモを取り出し、内容を書き留めていた。「デベロッパーチームにすぐに伝えたい」と問題の把握と改善に取り組む姿勢を見せた。

 同氏は「エンドユーザーのことを忘れてはならない。コンピュータの世界は、企業やIT部門ではなく、実際に利用しているエンドユーザーが動かしている」と話し、冒頭に記した気持ちで開発に携わってほしいと開発者にエールを送った。

開発者のコミュニティを強化――日本での取り組みとは

マイクロソフトの大場章弘氏 大場章弘デベロッパー&プラットフォーム統括本部長。「開発者同士のコミュニティを強化していく」と意気込む

 同フォーラムでは、マイクロソフト執行役の大場章弘デベロッパー&プラットフォーム統括本部長が日本における開発者向けの取り組みについて解説したことも付け加えておく。

 「開発者に対して、最新技術で仕事の付加価値を高める支援をする」と大場氏。マイクロソフトが提供する技術情報のポータルサイトなどを通して開発者から寄せられたフィードバックを踏まえて、同社が取り組む開発者向けのサービスについて語った。

 開発者から寄せられたフィードバックの中で、技術情報の日本語訳を求める声が多かったという。それを受け同社では、技術資料を3月から6カ月間で1万ページ翻訳したものを提供した。8月から10カ月で1万ページを追加提供予定としている。 

 11月5日に技術情報のポータルサイト、「MSDN」と「TechNet」をリニューアルした。インタフェースの改善やソーシャルブックマーク機能の拡充、サイト内検索機能の改善などが施された。開発者からの相談窓口の開設への要望を受け、マイクロソフトのエンジニアとオンラインチャットで会話をしながら検索する「人力検索サービス」機能を新設した。

 大場氏は、今後も開発者向けのコミュニティ支援を強化し、双方向に情報発信する仕組みを構築し続ける姿勢を見せた。

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