金融危機とIT経営伴大作の木漏れ日(1/4 ページ)

金融危機に世界が激震する中で、「バラク・オバマ」がアフリカ系米国人初のアメリカ合衆国大統領に選出されたことを好意的に受け止める人も多いようだ。だがユーザーのIT動向は厳しい。

» 2008年11月14日 08時00分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

 金融危機に世界が激震する中で、「バラク・オバマ」がアフリカ系米国人初のアメリカ合衆国大統領に選出された。混乱と一縷の希望が交差する晩秋となった。

深まる経済危機と情報システム

 銀行間の信用収縮により、1990年代末のアジア経済危機を彷彿とさせる国レベルのデフォルト(債務不履行)が多発する事態に至り、底の見えない恐怖が世界中の企業に押し寄せてきた。IMF(国際通貨基金)への信任も揺らぎつつある。

 このような金融収縮は実体経済にも大きな影響を及ぼしている。米国では、コンシューマーローンの厳格化により、自動車や不動産が記録的な低迷に陥り、大手自動車会社も国からの支援を期待するほどにまで悪化した。欧州各国も自国の自動車産業を支えるため資金注入を検討するなど、波紋は広がる一方だ。このように世界的なデフレスパイラルが深刻化し、今や恐慌前夜と言っても過言ではない。

 このような状況を踏まえ、ユーザーのIT投資は10月以降厳しさを一層増している。今後のシステム発注をすべて白紙に戻す動き企業もある。それどころか、場合によっては違約金を払ってもいいからすべてのプロジェクトを停止するといった動きすらあるようだ。

ユーザー調査

 このような書き出しから始めないといけないほど、ICT(情報通信技術)を取り巻く環境は厳しい。ICT分野で30年近く生きてきたわたしも、このような経験は初めてだ。その中で、何度か経験した危機(これほど大掛かりなものとはいえないが)から学んだことを手掛かりに、わたしなりの処方箋を書こうと思う。

 長らくユーザー部門とベンダーへの取材を続けてくると、その建前と本音が透けて見えるようになる。同時に、経営の一角を担う人(時にCIOと呼ばれたり、情報システム企画担当取締役、経営企画部門担当執行役員と肩書きはさまざまだが)とのおつきあいも続いていて、相談にのることもある。

 先日、15年以上情報システム部門を統括している上場企業の役員に会った。久しぶりというわけではなく、2、3年に一度はご機嫌伺いに参上している。わたしは日本のユーザー調査を代表する組織、JUAS(日本情報システムユーザー協会)がユーザー調査を始めたころ、そこの役員から依頼されて、調査概要の設計、調査対象の選定、選定先情報の入手、調査手法、調査票設計、面接調査手法、調査手順、分析まで、すべてのプロセスをスタッフに指導したことがある。一方で、リーディングユーザーへのインタビュー調査も担当していた。

 アンケート調査の回答数はおよそ350程度。その中で、先進的な試みを行っている企業を数十社選別し、直接赴いて約2時間程度の質疑を行うのだが、これが結構難しかった。回答者のレベルもさまざまで、課長から重役まで多くの人に会った。中には、既に導入されているシステムにこだわらず、革新的な考え方を持っている方が多数いた。前記した上場企業の役員はそのうちの一人だ。

「伴式」情報システム評価五原則

 消費者金融でそれなりの地位を築いたある方はその時点で、日本における最も優秀なIT部門のトップとして、わたしが密かに尊敬していた人物の一人であった。(上位10人の一人、それ以外の人物の中には現在も現役で先日行われたIT経営協議会のメンバーに選ばれている人ももちろん入っている)

 わたしが優秀な情報システム部門責任者と判断する際には、自分なりの選考基準に照らし合わせている。結構シビアだ。その中で、重要な点を幾つか挙げてみよう。

  • 既存のシステムを尊重するが決して縛られないこと
  • コスト、中でも構築と運用のコストをバランス良く重視すること
  • 決して斬新なシステム構築を目指さず、開発に要する時間を最小限に止め、出来上がったシステムの完成度が高いこと
  • 経営サイドの理解を常に得ていること
  • 利用する現場サイドを常に念頭に置いている。

 以上、5つを基準としている。これを「情報システム評価五原則伴方式」と呼ぶことにする。

 そんなのは「当たり前」だと読者の皆様は思われるだろうが、これが意外に難しい。経営サイドから、あるいはエンドユーザーサイドからの評価は情報システムの外のものである一方、実際には情報システム構築にかかわる外部の業者も巻き込んだ情シス内部の統制が1つの評価になってくるからだ。

 わたしはその調査課程で情報システム部門に在籍するさまざまな方とお会いし、その企業のシステムの実態と構築、運用の実際、「今後の投資計画」を伺ってきた。それを通して、その企業のIT政策、時にはその企業の経営戦略まで見通すことができるようになる場合さえあった。

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