高性能を追求したフェラーリの新世代データセンターF1での勝利を支える(1/2 ページ)

Ferrari(フェラーリ)は自社業務でデータセンターを利用するだけでなく、レーシング部門専用に最新鋭のハイパフォーマンスデータセンターを保有する。レースこそがFerrariの活力と情熱の源泉だからだ。このデータセンターは科学と技術的ノウハウとスピードへの情熱の真の融合といえるだろう。

» 2009年03月04日 16時04分 公開
[Chris Preimesberger,eWEEK]
eWEEK

 コンピューティングと個人の移動手段は密接に絡み合っている。自動車分野では何年も前から、CAD、GPS、衝突センサー、システムモニタリングなど何百種類ものアプリケーションが利用されてきた。

 しかし、イタリアのFerrari(フェラーリ)ほどコンピューティングシステムと緊密に結び付いた自動車メーカーは少ない。同社の収益の源泉は、高性能自動車のレースと世界的に有名なスポーツカーである(フェラーリのデータセンターの画像はこちら)。

 フェラーリは自社の業務でデータセンターを利用しているだけでなく、レーシング部門専用に最新鋭のハイパフォーマンスのデータセンターを保有している。レーシングこそがフェラーリの活力と情熱の源泉であるからだ。イタリアのマラネロにある同社の巨大な設計/製造キャンパス内の「F1 Data Center」と呼ばれるこの施設は、科学と技術的ノウハウとスピードへの情熱の真の融合といえるだろう。

 フェラーリはこのデータセンターの技術的詳細は明らかにしていないが、規模は中程度(約230平方メートル)で、約60台のラックにIBM、Sun Microsystems、Hewlett-Packardのサーバや階層型ストレージアレイが格納されている。電力変換(交流→直流)装置は、「APC Symmetra PX 250-500」電源、「Modular 3P」電源分配装置、「InRoom」冷却ユニットなどで構成されている。データセンター自体の冷房には空冷と水冷システムが併用され、室内は摂氏約23度に保たれている。

 F1センターは、1940年代に建設された最初のフェラーリ本社ビル内にあるが、APCによって設備は現代化されている。同センターの運用には膨大な電力を消費するため、電力変換装置も一級品であることが求められる。フェラーリF1部門のCIO、ピエルジョルジオ・グロッシ氏がeWEEKに語ったところによると、ほとんどのラックは平均で1日当たり約20キロワットの電力を消費するという。

 「これは必ずしも“グリーンコンピューティング”とはいえない」とグロッシ氏は照れくさそうに言った。「ハイパフォーマンスコンピューティングはグリーンITと相容れない部分があるのだ。それでもわれわれは、できるだけ効率的にコンピューティングを利用するようにしている」

 F1 Data Centerは非常に整然と管理されており、部屋全体が文字通りうなり声を立てている。中途半端にはみ出したケーブルは1本もなく、ケーブルの長さもすべてぴったりとそろっている。停止している装置もなければ、フルパワー以下で動作している装置は1台もないように思えた。

 APCのマーケティングディレクター、ロブ・バンガー氏は「わたしが驚いたのは、フェラーリは3年間にわたってこのデータセンターを24時間無休で運用していることだ。彼らはこれまでにセンター内のすべてのディスクを完全に入れ替えたが、ダウンタイムは一度もなかったのだ」と話す。

 なぜ自動車会社が、このようなハイパフォーマンスコンピューティング設備を必要とするのだろうか。

 F1センターでは、空力デザイン、エンジンのデザインと力学、パワーと排気のモニタリング、風圧テストデータの分析など何百もの技術的課題を処理している。演算件数は膨大な数に上り、24時間休みなく計算が続けられている。車のデザインや装備は絶えず変更される。フェラーリはあくなき執念で完璧を追求しているからだ。

 マラネロにあるフェラーリのテストコースでレースカーが走る音を聞けば、この執念の結果がどのようなものなのか分かるだろう。これらのレースカーは見事に設計・製作・チューニングがされ、高度な運転技術と相まって、自動車が走っているような音には聞こえない。それは非常にピッチの高い音で、まるでハチドリか蚊が耳元で甲高いうなり音を上げているような感じだ。

 フェラーリとレーシング分野で競合する約10社のグローバル企業(Mercedes、トヨタ、BMW、Renaultなど)は、F1グランプリのレーシングシーズンに世界各地を転戦する(2009年は17地域を転戦)。2009年シーズンは、3月29日にオーストラリアのメルボルンで開幕する。

 これはフェラーリのITスタッフに困難な仕事を要求するものであるが、それがどのようなものかを知っているレースファンは少ない。

 レースはマレーシア、ブラジル、フランス、日本、オーストラリアなどさまざまな国々で開催され、Ferrariのデータセンターチームはこれらの17カ所のサーキット会場で、レース中にリアルタイムで稼働する臨時データセンターをセットアップする。臨時データセンターはF1センターにダイレクトに接続される。

 フェラーリのITチームは約150人のクルーメンバーに加え、大型トラック7台分のサーバや電源、その他の機材一式で構成される。このハイテク“随行団”を引き連れて各地を移動するのは大変な作業である。

 この臨時のIT施設は、レース中にどのような役割を果たすのだろうか。天候などのレースコンディションにもよるが、各レースは平均2〜3時間にわたって続く。1台のレースカーに付き4人(Ferrariは通常、各レースに2台のレースカーを参加させる)のメンバーがそれぞれのワークステーションの前にしゃがみ込み、レースの間ずっとその場にいてドライバーと常にコンタクトを維持し、風速の変化、燃料消費、タイヤの空気圧、エンジン温度、油圧などレースに関する多数のデータをドライバーに伝える。

 いったんレースが始まると、ITスタッフは実際に車に対して一切修正を加えることはできない。調整が行えるのはドライバーだけである。フェラーリのような企業がF1レースで世界のリーダーの一員としての競争力を維持するためには、このような高度に洗練されたバックアップ態勢が必要とされるのだ。

 その成果は2008年に、フェラーリが世界F1チャンピオンシップで優勝するという形で結実した。

 フェラーリはレーシングデータセンターのこの3年間の実績に大いに満足し、F1センターをモデルとして全社的なITシステムを再構築する考えだ。

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