情シス部門がこれから始める「裏稼業」サバイバル方程式(1/2 ページ)

ITコンサルタントの平安彦氏は、長年の情報システム部門とのかかわりを通じて、「10年後は何をしているのかを明確にしなければ、部門の存在そのものが危うくなる」と指摘する。

» 2009年03月29日 09時56分 公開
[聞き手 大西高弘,ITmedia]

「いてくれないと困る」存在になっているか

 平安彦氏は、現在個人事務所を設立して、ユーザー企業のIT導入をコンサルティングしている。海外に多数の拠点を持つ大手企業のプロジェクトへの参加が多いが、最近はJ-SOX対応のためのプロジェクトが仕事の中心だった。J-SOX対応のプロジェクトは企業のIT部門が中心となり、各業務部門との調整、具体的なツールの選択、導入など相当に存在感を示すプロジェクトだったはずだ。しかし、平氏は「能動的に動いて情シス部門でしかできない仕事を作らなければ、景気に関係なく存在そのものが危うい」と語る。そう考えるにいたった背景とは何か、またどうすればそうした危機を乗り越えることができるのかを聞いた。


ITmedia J-SOX対応のプロジェクトはすでに具体的なツールの導入もほとんど終わって、具体的な監査サイドとの対応に入っているはずですね。

 多くの企業ではそうなっていますね。監査する側も実際の作業では許容範囲を探って、問題なく円滑に進める方策を練っているところでしょう。

ITmedia J-SOX対応のプロジェクトでは相当に情シス部門は存在感を高めたと思うのですが、それでも、情シス部門は危機感を持つべきでしょうか。

 J-SOX対応がうまくいったから、10年は大丈夫というわけにはいかないでしょうね。実際、多くの情シス部門の若手社員はキャリアパスを描けない状態だと思います。40代以上の先輩や上司を見て、「自分もああなりたい」と考えるケースは少ないでしょう。能力もあって前向きの人であればあるほど、社内の別部門に移るとか、ITベンダーに転職しようか、と考えている人も多いようです。

ITmedia 「ああはなりたくないな」と部下や後輩に思われても、なかなかチェンジできないという事情もありますよね。「俺だって君の年齢のころはそう思ってたよ」と(笑)。

 確かにそういう面もありますね(笑)。ただ、他部門の御用聞き的な存在であり続けると、部門そのものの存在価値が消えてしまいます。今、大手企業の情報システム部門などでは、各部門に専任のシステム担当者を張り付けていて担当の部門のためのシステムサービスを行っているケースが増えています。

ITmedia 御用聞きとしての役割を高めるのだったら、自然とそうなっていくでしょうね。

「情シス部門は役割を変えていく必要がある」と語る平安彦氏

 各部門の担当として張り付いている若手の情シス部員にとってみれば、こういうことが続くのだったら、いっそのことその部門の人間になって、ITに強い経理部員とか、ITに強い営業部員になった方が、自分の今後にもいい結果が出ると考えるわけです。もしくは、やはり自分はITにこだわりたいから、ベンダーやSIerに転職しようとか。

ITmedia 確かに、ほとんど担当先の部門にいるのに身分としては情シス部員、というのは長く続けていく上ではきつい環境かもしれませんね。モチベーションを維持するのも大変でしょう。

 個々の情シス部員のキャリアにも問題が出てきますが、これは情シス部門、あるいはその企業の情報戦略全体にも影響が出てきます。つまり、各部門に情シス部員が張り付いていることで、どうしても、部門ごとのエゴが突出してしまい、全体のプロセスを制御できなくなる危険が高くなるわけです。特に、部門間でまたがる業務プロセスをうまく回していくには、各部門の事情を理解した上で全体最適を図っていく必要があります。

ITmedia ずっと張り付いていると、それぞれの部門の代理人みたいになってしまうわけですね。

 そして全体最適はどこかよその部門がイニシアティブを握ってやってしまうかもしれない。本当に最適化ができるかどうかは別にして、今はユーザー部門が直接ベンダーやSIerとコミュニケーションしてシステム構築をしてしまうことも可能ですから。ただし、いくら調整をうまくやっても、営業部門が常に経理や生産の部門の業務プロセスをフォローしていくなんて不可能です。

ITmedia 常に各部門の業務プロセスの情報を把握していかなくてはならないわけですね。

 そうした情報が集約されて入ってくるのは、やはり情シス部門です。そういう部署がシステムと業務プロセスの全体最適をやるのが、当然一番いいわけです。

ITmedia しかし、システムの全体最適を進めていくのに、逆に情シス部門を無視するわけにもいかないのではないですか、社内的にも。

 確かにそうでしょう。しかし、ユーザー部門でも、ITに詳しい人は増えてきているし、実際はIT部門の人間がいなくてもSIerの言っていることも理解できる。それからSIer側も今どき顧客のビジネスを意識したシステム提案は当たり前です。

ITmedia となると、とりあえず情シス部門には話を通しておいてという感じになりますね。波風たてても、みたいな。

 そうですね。やはり「いてくれないと困る」ということでなければ、イニシアティブは握れないですよ。全体最適などはただシステムを作ったり、変更したりするだけではうまく回らない。業務プロセスを把握して、実際に回してみて正しい形を見出していくわけですから、まさに情シス部門が主導していく必要があるのですが、御用聞き的な仕事を中心にやっていると、対応が後手に回ってしまう。

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