定額給付金もいいが今こそ純粋なインフラ投資論が必要短期集中連載 ニッポンのブロードバンド基盤(1/3 ページ)

経済へのカンフル剤として定額給付金もなかなか頭の良い方法だが、光ファイバーは珍しいほど魅力的な政策対象であり、政府主導で整備すべき理想的なインフラだ。「民活」や「規制緩和」に逆流すると非難されるかもしれないが、今こそ原理原則に基づいた政策論が必要だ。

» 2009年03月31日 08時22分 公開
[境真良,ITmedia]
コンテンツ産業論や情報社会論を専門とする境真良氏

経済産業省でコンテンツ産業などの政策に携わり、現在は早稲田大学大学院の客員准教授や国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの客員研究員を務める境真良氏に短期集中連載(全3回)をお願いした。第3回は、光ファイバーインフラ事業者とそれを推進する意義をテーマに取り上げる。

短期集中連載 ニッポンのブロードバンド基盤:

光ファイバーインフラ事業者という選択

 前回は、NTTが生まれた背景を考えながら、むしろ光ファイバーインフラ事業者をNTTから括り出すことが妥当なのではないかということを提案して終わった。このことをもう少し説明しておこう。

 光ファイバーインフラ事業者は、第一種通信事業者より1つ少ない、通称「0種」(注1)と呼ばれる事業者のひとつの具体例である。「0種」通信事業者を作り出すことは、多面的な市場競争環境の中において中立的なプラットフォームを形成する上で、とてもすっきりした解になる。

 もちろん、その前提条件や課題もある。繰り返しになるが、大前提のひとつが市場における技術的不確実性が小さいことだが、光ファイバーという選択肢がほぼ唯一解であると見込まれる現時点において、この前提は整っていると考えてよい(もちろん、また光ファイバーを超える新たな技術が生まれたら、対応を考えなくてはならないのだが)。そして、事業の効率化については、「NGN」が示唆するように、まさにNTTは電電公社時代に比べて事業効率化を達成したわけだし、将来に向かっては、複数の事業者の競争にするというやり方もある(注2)。総じて見れば、光ファイバーインフラ事業者をNTTから生み出すことに何の問題もないということだと思う。

 これは産業構造論から見れば重要な効果を持つ。それは、インフラではなく、その上に成り立つサービス事業者へと成長の中心を移すことになる。

 光ファイバーインフラ事業者が括り出されれば、当然、それを利用して具体的な通話サービスやISPサービスを行う事業者には、平等な条件での接続が義務づけられる。光ファイバーインフラ事業を全くの独占にするか、寡占的に設計するかは別にして、適切な条件が設定されれば、そこから大きな事業利益を上げることは難しくなる。結局のところ、インフラではなく、サービスの高度化を通じてでしか、事業利益が上げられなくなるからだ。

 国内のインフラ増強ではなく、その上で展開されるサービス業や機器産業が発展することが、日本のICT産業が海外市場に展開するための重要な条件であることは、第1回で指摘したとおりだ。

注1 電気通信事業を含む設備産業性が強い産業において、公的規制は、インフラを自前で持つ事業者を「一種」、他人のインフラを借りる事業者を「二種」とすることが多い。そこで、インフラを持ちながら、自らは最終サービスをしない事業者を、「一種」よりさらに数字の小さい「0種」と呼ぶ。

注2 光ファイバーインフラに限定されれば、事業としての自由度もなく、また接続条件も差別化できないので、複数の事業者に競争させることは無駄であると思う人もいるかもしれない。しかし、完全な独占事業者を作れば、その事業内容は完全にブラックボックスとなり、政府による調整も効きにくくなる。そのため、地域分割などさまざまなやり方で、あえて複数事業者を競争させ、それによって間接的ではあっても効率化を促す手法がとられることがある。日本の電力事業に関する規制などもこの考え方を採用している。

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