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» 2009年03月31日 08時22分 公開

短期集中連載 ニッポンのブロードバンド基盤:定額給付金もいいが今こそ純粋なインフラ投資論が必要 (2/3)

[境真良,ITmedia]

今こそ政府主導の光ファイバーインフラ整備を

 光ファイバーインフラ事業をNTTとは切り離して立ち上げるというのは、かなりのコストを伴う事業に違いないが、オバマ政権の米国をはじめとして世界的に政府主導のインフラ整備が論じられる今は、その絶好の機会かもしれない。

 金融危機を引き金に、各国の経済政策は積極政策へと大きく傾斜している。総需要を増加させるために政府部門が財政支出を行う、いわゆるケインズ的政策については、今では当然という風潮だが、やはり幾つか問題を指摘しなければならない。その1つが、具体的な刺激方法の問題である。

 一国の経済は、さまざまな部分的活動の相互連携として、自律的に、自己創出的に動いている。その成長サイクルの破綻と再生の連環(注3)を調整し、経済成長の停滞をなるべく小さくしようというのが経済学の関心事だ。

 そこで停滞の原因が短期的な需要縮小にあると考える人たちは、むしろそういうときこそ政府が経済活動を積極的に行うことで、国家経済全体が成長サイクルに戻るために必要なカンフル剤となるべきだ、と主張する。

 だが、そこには大きな問題がある。政府支出の増大はそれだけで効果はあるだろうが(注4)、せっかくならそれによって国家経済全体がより効率の良い刺激の仕方が望ましい。いや、いずれ政府の支出が将来、国家経済が返すべき借金に繋がるのだから、そのことにこそ真剣にならなくてはならない。

 国家経済に大きなプラスの効果を持つ公共インフラの前倒し実施、という伝統的な考え方もあるが、頭痛のタネは、そういう公共インフラがなかなか見つからないことにある。それだけに実際に前倒し実施する事業の選択は極めて恣意的、政治的になりがちだ。多くの場合、橋や道路というインフラの波及効果は地域的に狭く、選別に失敗すれば国家経済全体への影響としての非効率に繋がる。

 すでに一部で始まっている定額給付金は、こうした批判に応えるという点ではなかなか頭の良い方法だ。国民自身の判断を媒介にして経済を刺激するという考え方は、政策の失敗を回避するという点では有効である。

だが、国民自身の判断が失敗したらどうだろう? 突然降って湧いた臨時収入を預金に回せば、その効果は政府自身が財やサービスを購入するよりさらに小さくなってしまう。大事なことは、政府の失敗を回避することではなく、その支出が正しく経済を刺激できることであることを忘れてはならない。

 そういう視点で光ファイバーインフラを見ると、珍しいほど魅力的な政策対象なのである。現時点でインターネット上のパケット総量は増え続けている。さらにNGNに見られるように、従来のネットワークはすべてIPプロトコルによるネットワーク(相互接続することによって、広義のインターネットと呼んでもよいだろう)に統合されることが明白であることも考えると、現時点ではインフラ増強の上限は見えないほどだ。しかも情報通信ネットワークの強化は極めて地域中立的で、国が強化すべきインフラとしてはかなり理想的である。

 だからこそわたしは、今こそ光ファイバーインフラを政府が積極的に支援するタイミングとして最良なのだ、と考える。そして、政府の投資が正しく中立的な光ファイバーインフラの強化に使われることを担保するためにも、現在のようなNTTへの事業監視と論争を繰り返す不毛なやり方を繰り返すよりも(注5)、そのほかの事業と切り離され、中立的な振る舞いをする、オープンアクセスを前提とした国家的光ファイバーインフラ事業の括り出しを今こそすべきはないか。

注3 資本主義経済は、投資と収益というメカニズムを基本として経済活動を行っている。これが基本的に維持される限りにおいて、少なくとも金銭評価総額において、経済は投資以上に成長しなければならない。それゆえ、資本主義経済は、自律的に成長サイクルを再生するダイナミズムを持っている。もっとも、その機能の微視的分析には諸説あって、伝統的には科学やノウハウの蓄積、社会資本の蓄積、貨幣システムとそれを活用した投資配分システムなどの社会的要素が、経済成長を支えていると考えられているが、必ずしもその具体像に定説があるわけではない(これこそ経済学の最大関心事だといっても過言ではないだろう)。そして、時に成長メカニズムの破綻が長引き、「退化」とも考えられる停滞をする例も、歴史上見つけることができる。それゆえ、あくまで経済成長は資本主義経済としての常態、理論的前提であり、かつ、経済学の「理想」なのである。

注4 マクロ経済学からすれば、総需要増加は、それだけで良性の効果をもたらすはずである。経済を構造的に分析せず、単にGDP全体の話をする限り、それだけで一定の効果があるはずなのである。

注5 諸外国には、日本と同様、規制官庁が事業者に対して接続命令や開放命令を発することで、オープンアクセスを実現する例も数多くある。しかし、その命令1つひとつの政治的コストは大きく、時間もかかるため、非効率だ。中には豪州のように、そうした問題を回避するために、政府が支援する光ファイバーインフラ事業の対象事業者の選定において、光ファイバーインフラ事業そのものの切り出しを必要条件とする例も現れている。日本として参考になるだろう。

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