わが社のコスト削減

生体認証が広げるコスト削減の可能性わが社のコスト削減(2/3 ページ)

» 2009年04月08日 08時45分 公開
[杉浦知子,ITmedia]

老舗スーパーが“指紋認証”で勤怠管理

十字屋商店の外観。平日の昼過ぎでも多くの買い物客で賑わっている

 神奈川県川崎市にある「十字屋商店 溝ノ口店」は、今年で創業49年を迎える老舗スーパーマーケットだ。溝ノ口店のほかに、柿生店、あざみ野店の合計3店舗を構える。十字屋商店では、2008年10月に指紋認証を用いた勤怠管理システムを導入した。

 同商店は、全従業員の約7割がアルバイト職員。勤務時間もさまざまで、従業員の入れ替わりも頻繁に発生する。新システムの導入前は、紙のタイムカードを用いた勤怠管理システムを使用していた。従来のシステムでは、タイムレコーダーに打刻した情報の集計に時間がかかり、打刻ミスも多く発生するなどの問題を抱えていた。

北山夏美氏

 タイムレコーダーと給与管理システムが連携していなかったため、月末の集計に4日もの時間を費やしていた。タイムレコーダーに打刻した数字をExcel上に打ち込んで集計し、給与管理システムに入力する作業をしていたという。「打刻漏れや打刻ミスは月末のチェックの段階で発覚するため、何週間も前の勤怠時間を覚えていないことも多々あった」と話すのは、現在勤怠管理システムの運用を担当する経理課管理担当の北山夏美氏。

 もう1つの課題は、他人のタイムカードを誤って打刻してしまうミスへの対応だ。「月に相当数発生していた」(北山氏)というこのミスは、普段タイムカードを保管している位置に他人のタイムカードが保管してあったりした場合に発生する。その打刻ミスを解消したいという思いから、指紋認証による勤怠管理システムの導入に踏み切った。

 導入したのは、ヒューマンテクノロジーズの指紋認証のASPサービス「King of time」。指紋認証で打刻した情報を自動集計し、給与管理ソフトウェアとも連携できる。打刻から給与計算まで一括でできるサービスだ。

従業員で入り口に設置した指紋認証装置。高齢の従業員も多いが、PC操作にはすぐに慣れたという

 同商店では、従業員出入り口に、指紋認証装置を接続したPCを1台設置している。従業員はマウスの操作で「出勤」「退勤」「休憩」を選択し、認証装置で打刻する。「高齢の従業員も簡単な操作なのですぐに慣れた」という。

 「指紋認証を選択した理由は? 」との問いに「自分しか押せないから」と北山氏。一番の問題は打刻ミスだったというから、間違いを防げる点での評価が高い。ICカードによるタイムレコーダーの導入も検討したが、レコーダーとカード1枚1枚の価格の試算より、指紋認証システムにかかる費用が「1店舗につき7万円ほど安かった」と、コスト面でも評価している。3店舗合わせて年間で21万円の削減になる。

 北山氏は「装置の導入だけでは運営は難しい」と指摘する。システムの刷新に当たり、勤怠管理の仕組みも変更した。出退勤、休憩時間に指紋を認証して時間を登録するだけでなく、その日の勤務時間をあらかじめ記し、上司に認印をもらう「申告カード」を新たに作った。申告カードに記された時間と、システムに打刻された実際の勤務時間を照らし合わせている。

 上司の命令によって勤務する時間帯を記し、延長した場合も延長時間を書き、承認を受ける仕組みを作ったことで「従業員の意識が変わった」(北山氏)という。「以前は、目的なく延長勤務を続ける従業員も見受けられたが、導入後は申請した時間までに終わらせようという意識が芽生え、適正な延長がなされるようになった」のだ。

 導入して5カ月、コスト削減の効果はあったのか。北山氏は「現在、具体的な数値については検証している段階だが、主に人件費の部分で削減効果は目に見えている」という。1つ目の効果は、タイムレコーダー情報の集計作業にかかっていた4日という日数を解消できたこと、2つ目の効果は、余剰な労働により発生していた人件費を削減できたことだ。確実な本人認証によって打刻ミスがなくなったことも、従業員の満足度の向上に貢献している。

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