情報システムを開発し、所有する「自前主義」を貫いてきた同社だが、深刻化する不況の中で、それも微妙に変化している。トヨタで情報システムを統括する大西弘致常務役員に話を聞いた。
トヨタ自動車は、カンバンなどの言葉が象徴するトヨタ式生産方式で日本のみならず、世界を代表する企業という地位を確立した。「トヨタ式」の生産現場を支えるのは情報システムの役割だ。これまで基本的には情報システムを開発し、所有する「自前主義」を貫いてきた同社だが、深刻化する不況の中で、それも微妙に変化している。トヨタで情報システムを統括する大西弘致常務役員に話を聞いた。
ITmedia トヨタ自動車の情報システムといえば、生産方式などが中心に語られることが多いと思います。一方で、世界に分散する拠点の情報を共有し、コミュニケーションする手段などがあると思います。優れた経営を実現するための情報共有手段などを教えてください。
大西 私は2007年から情報システム本部を担当することになりました。トヨタ自動車に入社し、商品企画を10年、国内営業を16年、ITS(高度交通道路システム:渋滞情報と連動したナビゲーションシステムのVICSなど)を4年間担当しました。ITとはいっても、ITSと基幹系システムは別物なので、最初から情報システムについて、詳しく分かっていたわけではありません。
トヨタでは、もともとはIBM中心のシステムを使う旧トヨタ自動車工業と、富士通中心のシステムを使っている旧トヨタ自動車販売でシステムは分かれていました。旧トヨタ自動車工業は、自動車の生産を支えるためのシステムを運用し、旧トヨタ自動車販売は、データベースマーケティングツールによって、ディーラーの販売支援などを行なっていました。自動車を企画して、生産、販売、アフターサービスをするのがビジネスの基本ですので、各工程についての情報システムを最適化して構築してきたのが実情といえます。
基本的に、企業規模の拡大に合わせながらシステムを自らつくる「自前主義」を貫き、1990年代に一応の完成を見ました。しかし、そのころからグローバル化が急進しました。単に現地販売するのではなく、アジアや欧米で現地生産、現地調達を強化してきました。
この頃、エポックメイキングな出来事として「IMV」(Innovative International Multi-purpose Vehicle)というプロジェクトを発足させ、同車を2004年に発売しました。これは、世界規模で生産、供給体制を構築し、まったく新しい製品ラインを用意する試みです。日本を除く世界の広域で生産を分担し、広域で販売するという考え方に基づいています。日本以外の地域で広域生産、販売をしようとすると、情報システムなしで実現は不可能です。そこで、本格的なグローバルシステムが出来ました。一方、オープン系ツールの導入も始まり、世界に点在するトヨタの拠点やサプライヤーごとに、利用するツールが異なるといった状況も明らかになりました。
典型例がCADです。自動車のデジタルエンジニアリングのための統合CADツールは、内製のものでしたが、グローバル化の進展で車両系では仏Dassault Systemsの「Catia」を導入しました。内製システムとして統合CADはかなり完成度が高いものでしたので、システム本部にとっては、外資系のパッケージソフトを採用したことはある意味で衝撃的な話でした。
もう1つ重要なのは、グローバルなITマネジメントをしなくてはいけないということになったことです。そこで2000年代初頭に「ITマネジメント部」という部が発足しました。そこが要となって、世にいうITガバナンスが始まりました。
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