鳩山さんとコンピュータ――2010年代の産業政策伴大作の木漏れ日(2/3 ページ)

» 2009年11月12日 17時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

消費者主導の景気回復の問題点

 さて、民主党の景気回復シナリオだが、当然、幾つかの問題点がある。まず、既に報道されていることではあるが、補正予算の凍結など、本来、景気回復に投入される予定になっていた予算が執行停止に追い込まれ、景気回復に水を差すのではという点だ。約3兆円の執行停止はGDPを0.6%落ち込ませるという。それへの対応策として、そのお金をすぐさま消費に向かう各種の手当てに充てれば問題はないのだが、それには制度の改革など時間がかかる。

 さらに、もし、仮に来年度予算を含め、ある程度シナリオに沿った福祉系の支出が短期間で可能となったとしても、恩恵を受ける人たちと制度改革により切り捨てられる人たちとのバランスがどうかという問題が残る。

 また、民主党の主張するように「友愛精神」に富んだ政策を実現しようとすると、財源確保のために、官公庁の組織見直しとそれに伴う公務員のリストラは避けられない。

 それが果たして可能かどうかという技術的な問題点は別として、仮に実現できたとしても、公務員の削減は大都市ならいざ知らず、これといった産業のない地方都市では飲食店を中心に致命的な損害を与える可能性が大きい。

 すべての作業が順調に進み、消費者が一斉に購買行動に移るとしても、彼らの購買行動が日本の企業の製品、サービスに向かうかどうかは分からない。

 既にアパレル小売産業では外資系の大手が日本に続々と進出しているが、それに対抗する日本の企業も生産のほとんどは海外で行っている。つまり、日本人の雇用創出にはつながらないのだ。この現象はアパレルだけではなく家電などでも進んでいる。このままなら、自動車などの耐久消費財もやがて中国製の日本車を買う羽目になりかねない(このコラムを執筆中に日産自動車は格安の車を世界中で生産し、日本向けにはタイで生産する車を輸入すると発表した)。

産業構造の大変革

 民主党政権の思惑通り、産業政策が根底から覆るかどうかという議論は別にして「政治家、産業界、官僚」のもたれ合いのトライアングルの寿命が既に尽きたことは明らかであった。そうなると、日本企業も過去の遺産からの決別を余儀なくされる。いつまでも官庁頼みというのは通用しなくなる。政府や地方公共団体などではこれまで特定の国産ベンダーが製造するコンピュータを用いてきたが、このような「もたれ合い」の構図はいつまでも続かない。2006年に防衛庁(当時)が米Dellから5万6000台、総額約40億円のPCを落札したが、今年に入り、独立行政法人でも多数のサーバを同社が受注したとうわさになっている。既に、既得権益は失われている。

 オーバーカンパニーの解消も産業構造の変化でこれまで以上に進むだろう。既に金融や流通分野においては1990年代のバブル崩壊の過程で相当進んだが、地方銀行や中小金融機関の再編はこれからだ。最近では食品や電機産業などで再編が進んでいる。

 この流れは一方で負の連鎖も招きかねない。地方ではロードサイド店に象徴されるように大規模資本の小売店が駅前の零細商店を押しつぶす現象が加速する。地方では厚待遇に甘えている自治体の職員も、地方企業の業績不振と中央からの補助金削減により、本来彼らが受け取れるレベルまで報酬が減額される可能性も高い。

 つまり、民主党の政策では、企業への補助を個人への支給に切り替える結果、もともと体質が脆弱な地方経済を直撃する結果になりかねないのだ。これにより、中央の政治家、官僚、経済界というトライアングルに対し、地方を支配していた建設業、地方自治体、農協のトライアングルも崩壊の危機に瀕する可能性が高い。地方都市の飲食店がつぶれるという話と同列に扱うわけにもいかない。

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