デジタル著作物の不正使用を追跡するAttributor、メディア企業のメリットを紹介

コンテンツの不正使用対策サービスを手掛ける米Attributorが、国内市場への参入に向けて事業の特徴を説明した。

» 2010年05月27日 09時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 インターネット上のニュース記事やブログ、電子書籍などの普及に伴い、デジタル著作物の著作権侵害が問題となっている。デジタル著作物の不正使用対策サービスを手掛ける米Attributorの共同創業者兼CEOのジム・ピトコー氏、経営および事業開発担当顧問のマット・ロビンソン氏が来日し、デジタル著作物の適正使用を促す同社の取り組みを説明した。

ジム・ピトコー氏(右)とマット・ロビンソン氏

 デジタル著作物は、複製や編集などの操作が容易にできるため、適切な対策を講じなければ悪用されてしまう。例えばニュースサイトに掲載された記事の文章を悪質な人間が自身のWebサイトへ勝手に転載し、ページ閲覧数を稼いで不当に広告収入を得るといったケースが確認されている。

 デジタル著作物の悪用を防ぐには、デジタル著作権管理技術の活用、契約による購読者管理といった技術と人的な作業の両面でさまざま方法がある。しかし、デジタル著作物を多数発行する企業では、すべての著作物に対してこうした方法を施すのが難しい。管理業務やコストも大きな負担となっている。このため、Attributorはデジタル著作物の流通状況を監視し、不正使用を行う人物や組織への勧告、交渉を代行するサービスを2006年に開始した。

 ピトコー氏は、デジタル著作物の流通を監視するメリットとして、「利用契約に照らした利用実態の把握」「デジタル著作権者の収益拡大」「不正使用の是正」「編集企画への活用」の4点を挙げる。「悪質な行為をする人間や組織を追及するというよりも、著作物で正しいビジネスをしてもらうように促すのが当社の役割だ」(ピトコー氏)

 例えばニュース通信社では新聞社やテレビ局、インターネットポータルの運営企業にニュース記事を配信している。配信を受ける企業が掲載できる記事の種類や本数は、事前の契約で決められている場合が多い。しかし、インターネットの普及で掲載記事が増え、ニュース通信社も配信を受ける企業も利用実態を正確に把握するのが難しくなった。ピトコー氏によれば、利用実態を可視化することでニュース通信社は超過利用分の収入を得ることができ、配信を受ける企業はニュース通信社との契約の履行状況を監査で証明できるようになるという。

 また、デジタル著作物を不正使用する人物や組織には、著作権法令に基づいて勧告し、掲載を止めるか、著作権者と利用契約を結んで費用を支払うよう促す。相手がこれに応じない場合は、デジタル著作物が設置されたプロバイダーに依頼してデジタル著作物のデータを削除してもらう。さらに悪質な場合は、検索サービスやアフェリエイトネットワークに不正使用者の情報を知らせ、不正使用者のページにアクセスできないようにするなどの措置を講じる。

 不正使用の監視以外の用途では、どのような種類のコンテンツがどの程度利用されているかという情報を著作権者やコンテンツの発行元が把握することで、読者から人気を得られるコンテンツの企画・制作に役立てられる。

 ロビンソン氏は、「米国の場合、最初の勧告で84%がコンテンツを削除するか、利用契約を結ぶ。悪質な不正使用者には厳正な態度で臨んでいる」と説明する。

 同社のコンテンツ追跡では、まずデジタル著作物の発行元からコンテンツを提供してもらい、コンテンツごとにフィンガープリント(指紋情報)を付与して再配信する。独自のクローリングシステムを使って400億以上のWebページやオンラインストレージサービスなどのWebサイトを自動巡回し、デジタル著作物のデータやWebサイトの情報を取得。取得したデータとフィンガープリントを照会し、発行元から許諾されているデータであるかを調べる。

 現在のサービスはテキストベースのコンテンツに対応しており、一部が改変されても、正確に追跡できるという。画像や音声・楽曲のコンテンツを追跡する技術も開発済みで、将来的にゲームを含めたマルチメディアコンテンツや金融情報、影響力のある個人ブロガ―が発信したコンテンツの利用を追跡するサービスも計画している。

 ピトコー氏は、今後AppleのiPadのような端末を利用した電子書籍サービスが広まれば、デジタル著作物の不正使用がますます増える恐れがあると予想する。「有益なデジタルコンテンツが正しく利用される環境の実現に貢献できるよう努めたい」(同氏)と話し、同社サービスの利用を呼び掛けている。

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