スマートグリッドの行方伴大作の木漏れ日(1/3 ページ)

スマートグリッドは、米国の老朽化したインフラの更新にとどまらず、中国や日本を巻き込んだ「エネルギー革命」へのシフトを表す構想である。これは見過ごせないテーマだ。

» 2010年07月07日 08時00分 公開
[伴大作,ITmedia]

 新しい発電手段の1つである太陽光発電は、今静かな注目を浴びている。米国ではオバマ大統領が「グリーンニューディール」を政策の柱に掲げ、日本では景気施策の1つとして、家庭用太陽光発電に助成が行われることになった。太陽光発電は、将来枯渇の可能性がある化石燃料の代替エネルギーであり、二酸化炭素を発生させないクリーンエネルギーの切り札である。

 太陽光発電は、単なるソーラーパネルの話題ではない。スマートグリッドという構想と結び付き、老朽化した発電/変電設備など、米国のインフラを更新する可能性を秘めている。またエネルギー供給側の問題にとどまらず、社会全体の自然由来エネルギーへのシフト、つまり「エネルギー革命」を導くものともいえる。

 世界で最もエネルギーを消費している米国、将来は米国のエネルギー消費量を上回るとされる中国、そして日本と欧州の間では、既に新たなエネルギーに視線を向けている。電力生産の設備を作るメーカー間でも、激しい主導権争いが起こり始めている。

オバマ大統領がスマートグリッドを推進する真の狙い

 スマートグリッドは、米国の第44代大統領バラク・オバマ氏が掲げたグリーンニューディール政策の根幹を成すシステムの1つだ。以前僕は、日本は太陽光発電や送電技術で米国に先行しており、ビジネスチャンスになると指摘した。だが取材を重ねるうちに、米国の「スマートグリッド」の新たな姿が見えてきた。

 グリーンニューディール政策で大きなウエイトを占めるのは、送電網や原子力発電所の近代化である。また、太陽光や風力などの自然由来エネルギーの利用にも重点が置かれている。自然由来エネルギーは、単なる付加的なエネルギーという位置付けではなくなっている。そして米国のスマートグリッドにおける真の狙いは、自然由来エネルギーの活用を通じて、エネルギー安全保障、雇用創出、次世代エネルギーにおける世界の主導権を握ることである。

自然由来エネルギーが米国にもたらす恩恵

 自然由来エネルギーに最初に注目したのは、オバマ大統領ではない。京都議定書に全面的な反対を唱えたブッシュ前大統領だ。彼は2001年5月、米国のエネルギー政策を示す「国家エネルギー政策」(National Energy Policy:NEP)を発表した。そこでは国内のエネルギー供給量の拡充が重要視されていた。

 さらに同大統領は2006年1月末の年頭教書演説で、「米国競争力イニシアティブ(American Competitiveness Initiative)」と「先進エネルギーイニシアティブ(Advanced Energy Initiative)」を含む提案を行った。前者には106億6000万ドル、後者には21億ドル4600万ドルを支出するというものだった。先進エネルギーイニシアティブの中には、ソーラーアメリカ計画も含まれていた。

 太陽光発電はこの時点において、代替エネルギーの主役ではなかった。だが、米国は砂漠や荒野を含む広大な領土があり、太陽光の照射に恵まれ、東海岸、メキシコ湾、西海岸と三方の海に面している。すなわち太陽光発電や風力発電に適した土地が数多くあるのだ。

 米国は世界最大のエネルギー消費国かつ化石燃料輸入国である。化石燃料はおおむね100年以内に枯渇する可能性が高く、米国においても今後入手しにくくなるだろう。その化石燃料を自然由来エネルギーが代替できるなら、米国の国益にかなう。石油の本場であるテキサス州はブッシュ元大統領の地元であり、石油関連産業にかかわる人もたくさんいる。石油資源の実態を知る彼の決断は、深刻な危機感から生まれたものだろう。

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