4回にわたってグローバルサイトの構築法を述べてきた。最終回は世界規模でマーケティングコミュニケーションを展開する企業が直面する組織・文化の壁について、実例を交えて解説する。
グローバルサイト構築においては、本社の広報室・宣伝室や国際戦略室、各製品の広報・宣伝組織、現地法人などの複数の組織が関係してくる。
このようにマーケティング機能を複数の部署が担っていると、おのおのが自部署の利益を優先させるので、組織の壁を超えた効果的なマーケティングコミュニケーションが実現しにくい。昨今ではこうした状況に対し、CMO(最高マーケティング責任者)を置き、マーケティングコミュニケーション戦略を本社ですべてコントロールする「中央集権化」を行う企業が増えている。
グローバルマーケティングコミュニケーションの中央集権化は、ブランディングの一貫性の保持、予算対応、危機管理の面でメリットをもたらす。
地域/製品ごとに広報・広告物を制作すると、企業ブランドの意味やコミュニケーション手法を一貫させるのが難しく、消費者に対して統一感のないメッセージを発信することになりかねない。
これを回避するためには、国や製品によって活用できるメディアや広告の浸透力の違いを本社が理解した上で、アウトソーシングする企業を絞り込んだり、業務を集約したりする必要がある。これにより二重投資を回避し、企業ブランドの一貫性を保てるようになる。米IBMが400社以上あった広告代理店をOgilvy & Mather1社に絞り込み、中央集権化を実現した話は有名だ。
中央から規律をもって管理されないと、マーケティング予算の配分に影響が出てくる。通常グローバル企業の予算配分は、部署の政治力で決まってしまう場合が多い。事業規模が大きい部署の予算は多く、これから伸びる可能性のある市場には予算が配分されにくい。またオリンピックやワールドカップなどの巨額のスポンサー予算は、現地法人だけではまかなえないため、敬遠されがちになる。
マーケティング機能の中央集権化を進める本社の場合、投資対効果の観点からほかの予算を削ってでも利益を獲得できると見込める市場があれば、そこに戦略的な投資をしていく必要がある。
グローバル市場では、企業の不祥事が一気に広まりやすい。部品や製品の共通化が進んでいると、一地域で発生した問題はすぐさま他地域に波及する。また企業の対応のまずさなども、インターネットや口コミで瞬く間に広まってしまう。
ある地域で生じた不祥事は、企業ブランド全体を傷付けることにもなりかねない。この場合、情報を本社に迅速に集める体制を作り、危機管理までを中央集権化することで、グローバル市場を見据えた判断と統一的な対応を行うことができる。
このように全体最適を優先する中央集権化のメリットは多いが、権限を縮小されることになった組織からは要望や不満が発生することもあるので注意しておきたい。
グローバルマーケティングコミュニケーション担当者は、本社の権限を持っているにもかかわらず、実に多くの悩みを抱えている。以下は、その具体例だ。
これらは本社と支社の立場の違いがもたらす不満のようにも見えるが、実際は欧米と日本の企業間に存在する文化的な背景が色濃く反映されている。
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