自らを“実験台”としSaaSのベストプラクティスを蓄積する――NEC 山元執行役員常務(1/2 ページ)

NECのビジネスユニット再編には、国内だけでなく海外での地歩も固めようという意図があるようだ。従来から優位性を持つテレフォニー分野に加え、SaaS事業でも独自のアプローチを展開するという。

» 2010年07月23日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 2010年の2月25日、NECは既存の「ITプラットフォームビジネスユニット(BU)」と「企業ネットワークソリューション本部事業」を統合し、「プラットフォームビジネスユニット」を新設すると発表した。同4月1日には新体制での事業活動を開始している。同BUの指揮をとるNECの山元正人 執行役員常務に話を聞いた。

技術の変化がもたらすユーザー環境の変化に、即応できる組織を

NECの山元正人 執行役員常務 NECの山元正人 執行役員常務

ITmedia BU再編の狙いは?

山元 まず挙げられるのは、(プロダクトやサービスに関する)マーケティング機能や営業体制を1つにできる、という意義です。

 テレフォニー分野を含めた製品ポートフォリオを持つ企業ネットワーク事業本部は、従来から海外での営業体制に強みを持っていました。実際、人員も半数以上が海外に配置されています。対して、サーバやミドルウェアを主力とするITプラットフォームBUは、海外での競争力をもっと伸ばす必要がありました。これらを統合することで、“ネットワーク部隊の既存顧客に、ITプラットフォーム部隊の製品を提案する”といったビジネスが可能になります。従来も一部では、BUをまたがったビジネスをすることもありましたが、どうしてもやりにくい。そういった事態を解消できるのです。

ITmedia IT製品とテレフォニー製品の扱いを分けるのはあくまでもベンダー側の都合であって、ユーザーとしては窓口を一本化したいだろう。

山元 そうです。われわれは昨年、営業部隊も一本化しました。ユーザーにとってはNECの営業窓口は1つ、そして対応もワンストップという体制が望ましい。今回の組織変更でプロダクト側もワンストップに統合されました。ユーザーに提案しやすい、そして提案を受け入れてもらえやすい環境が整ったのです。

 従来の企業環境では、電話関係の調達は総務部門が担当するのが一般的でした。ですがIPテレフォニーの浸透で、電話は既に、ITの世界に踏み込んでいます。そうなると、扱いも総務部門から情報システム部門になることが考えられます。このように、テクノロジーが変化すれば、ユーザー環境も変化します。変化に即応できる組織作りが問われているのです。

ITmedia 統合後の新BUに所属するスタッフには、“提案の幅が広がった”という実感がある?

山元 効果が出始めているとはいえ、ITとテレフォニーを一緒に提案するというケースは、まだ大々的に実施してはいません。急に組織を、そして提案手法を変えてしまうと、仕掛かりの案件にも影響してしまいます。緩やかに統合しながら、“ユーザーのニーズに合致するケースがあった場合、一緒に提案に行く”という形で、段階的に進めています。

 わたしは、NECのようにIT製品とテレフォニー製品をトータルでラインアップしている企業はあまりないと考えています。最近ですとシスコシステムズがサーバ事業を始めました。逆にヒューレット・パッカードはネットワーク事業に乗り出した。ですがNECは、もともと両分野を持っており、これが強みになっています。

 “強み”は、数値に表れています。国内では、IP-PBXで30.8%のトップシェアを有しています。ソフトウェアフォンは22.7%、IP電話端末が37.4%のシェアを持ち、いずれもトップシェアです(ここまで2008年 富士キメラ総研調べ)。またUNIVERGEシリーズは2年連続で顧客満足度ナンバーワンを獲得しました(ネットワーク機器部門において。2009年 日経コンピュータ調べ)。

 海外でも、法人向けテレフォニー市場において、シスコに次いで2位のシェアを得ました(2009年 ガートナー調べ)。世界中に約3000社のパートナーチャネルがあり、特に北米やヨーロッパ、オーストラリアなどには強力なネットワークがあると自負しています。

 PBXの数が出ている業種としては、特に教育、病院、ホテル、公共機関といった分野が挙げられます。中でもラスベガスのホテルでは、おそらく半分以上のホテルにNECのPBXが入っていると思います。

 その背景には、ノウハウの蓄積があります。例えば、朝のモーニングコールをフロントのスタッフが一括で設定できるように設計しているなど、ホテルが必要とする電話の機能とをよく知ることで、ホテル側がオペレーションしやすいようなに製品化しているのです。その積み重ねが、実際の導入につながっています。

 ほかには、スペイン、そして南米も含めたスペイン語圏で最大の通信事業者であるテレフォニカのSaaSプロジェクトを受注しました。同社は音声通話以外の分野にも、事業分野を広げようとしています。具体的には、法人向けのERP、CRM、資産管理といった分野のSaaSを、そのポートフォリオに加える取り組みです。今後は通信事業者も、ビジネスの軸足を音声ではなくデータ通信に移す必要があるでしょう。

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