来店1回当たりの購入額を増やすのと、買い物を素早くできるようにするのと、どちらが店舗の売り上げを伸ばすことができるのか。米国ショッパー・マーケティングの第一人者の著書を、同書の翻訳者が解説します。
「Inside the Mind of the Shopper」(邦題:「買う」と決める瞬間)翻訳者として得た知識を紹介する本シリーズ、前編「買い物客は店内滞在時間の80%を、無駄に過ごしていた」では、米国の買い物客の3つのタイプと購入までのステップ、そして店舗の多くがその事実に則していないことを学びました。後編では、これらに対応したスーパーマーケットの例を紹介します。
スーパーは、買い物客あっての存在です。当然買い物客を第一に考えて経営がなされていると思うところですが、実態はそうではないようです。実は米国のスーパーの利益の多くは、買い物客の財布から出ていません。以下は、典型的な米国のスーパーの収益源を大きな順に並べたものです。
米国のスーパーマーケットは、ウォルマートに代表されるマスマーチャンダイザーの攻勢にあえいでいます。価格競争に陥って利益率が低下しているスーパーマーケット各社は、メーカーに対しさまざまな協賛金を要求するようになりました。その結果、収益源のトップが協賛金となってしまったわけです。そしてそれは同時に、根本的な手を打てないで立ち尽くしているスーパーマーケット各社の姿も浮き彫りにしています。
この事実こそが、本書『「買う」と決める瞬間』が、現在必要とされている理由なのです。
従来スーパーは、買い物客の来店1回当たりの購入額を増やす努力をしていました。そのための工夫として、店内にできるだけ買い物客を滞留させ、目当ての商品を買う過程でほかの商品にも注意が向くよう、特売品を店の一番奥に陳列するなどしていました。
ところが、店舗の売り上げは買い物客の店における滞留時間ではなく、買い物の効率と大きく関連していることが多くの調査から判明しました。上のグラフを見て分かるように、1ドル使うのにかかる時間が30秒短くなると、売り上げはなんと倍になります。まさしく「ときは金なり」で、お客様が買い物を素早くできればできるほど、お店の売り上げは増えるのです。つまり、1ドルの売り上げを上げるのに何秒かかっているかに注目すべきだったのです。
ここで脚光を浴びるのが、前編で説明した「急ぎの買い物(Quick)」です。この図からも分かるように、店内に長く滞在する「まとめ買い(Stock-up)」よりも急ぎの買い物客の方が、1分当たりに使う金額がはるかに大きく勾配も急です。急ぎの買い物客を少しでもグラフの左側に寄せる努力をする方が効果が出やすいのです。売り上げを伸ばすためには、急ぎの買い物客の効率改善のために、店舗のデザインや品ぞろえ、商品の配置などにどう取り組むのかが大切ということです。
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