NASDAQ上場の中国ITサービス企業が描くグローバル事業戦略Weekly Memo

中国のITサービス企業として初めて米国NASDAQに上場したハイソフトが先週、東京都内で今後の事業戦略を説明した。注目すべきはグローバルの視点である。

» 2010年11月22日 07時45分 公開
[松岡功,ITmedia]

ITベンダーとユーザー企業の割合は半々

 「ハイソフトは設立当初からグローバル企業になることを目指してきた。これまで日本や米国の市場で培ってきたノウハウを、成長著しい中国市場でも生かしていきたい」

 中国・大連に本社を置く海輝軟件(国際)集団(hiSoft Technology International、以下ハイソフト)の孫振耀(スン・チェンヨウ)会長は11月16日、東京都内で開いた記者会見でこう強調した。

 記者会見後には、都内ホテルに日本の顧客やパートナー企業を招き、先頃米国NASDAQへ上場したことを受けて記念セミナーを開催。孫会長が感謝の意を示すとともに、現在の事業状況や顧客事例、中国のIT市場動向などが紹介された。

 記者会見およびセミナーを取材して注目したのは、ハイソフトのグローバルでの事業展開ぶりだ。そこには同社ならではの戦略とともに、中国のITサービス企業が持つポテンシャルを感じ取ることができた。今回はそうした点に着目したい。

 記者会見に臨むハイソフトの孫振耀会長 記者会見に臨むハイソフトの孫振耀会長

 1996年11月に創業したハイソフトは、アウトソーシングを中心としたITサービス企業である。現在、中国、日本、米国、シンガポール、英国に合計16の事業拠点を持ち、そのうち中国とシンガポールの9拠点には開発センターを設けている。

 孫会長によると、顧客のおよそ35%がフォーチュン500に名を連ねる企業で、売上高の55%を占めているという。中でも米国のIBMやMicrosoft、Hewlett-Packard(HP)とは10年以上の取引がある。ちなみに長年取引を行っている日本企業も少なくないが、公表していないという。

 こう聞くと、やはり取引先にはITベンダーが多いのかと思いきや、同社日本法人の小早川泰彦社長によると、ITベンダーとユーザー企業の割合は半々で、最近ではユーザー企業と直接取引を行うケースが増えているとか。このユーザー企業の割合が、ほかの中国のITサービス企業に比べて多いのも同社の特徴の1つだという。

 従業員数は約6000人。直近の業績は2010年上期(1-6月)で、売上高が前年同期比52.7%増の6520万ドル、純利益が同2.3倍の670万ドル。伸び率の高さもさることながら、従業員1人当たりの売上高を計算すると、中国企業のコスト競争力が如実にうかがえる。

 そんなハイソフトは2010年6月30日、中国のITサービス企業として初めて米国NASDAQへの上場を果たした。そこにはグローバル企業への強い執着があった。

中国市場に注力したグローバル企業への挑戦

 冒頭の孫会長の発言にもあるように、設立当初からグローバル企業になることを目指してきたハイソフトは、まず日本や米国の市場で事業を展開していった。

 孫会長によると、同社のこれまでの経緯には、市場の広がりにおいて3つの成長段階があったという。最初は日本市場、次に米国市場への拡大、そして直近が中国市場への注力である。

 最初の顧客は日本の川崎重工業で、同社と深い関係を持つ創業メンバーがいたことが取引のきっかけになったそうだ。また、1998年には日本ビジネスコンピューター(JBCC)と日本で合弁会社を設立。その後、日本市場での取引が増えていく中で、孫会長は「日本の顧客から品質やセキュリティの重要性を学んだ」という。

 米国市場への進出は、2002年に同社の中国の開発拠点が米General Electric(GE)のグローバル開発センターとして認定されたことがきっかけになった。2003年には米国アトランタに事業拠点を設け、取引を拡大していったという。

 そして直近の中国市場への注力では、3つの狙いがあるようだ。1つ目は、これまでの中国の開発拠点を軸としたオフショアITサービスの拡充。2つ目は、成長著しい中国市場へ進出するグローバル企業へのITサービス支援。3つ目は、中国企業へのITサービスの提供である。

 そのいずれにおいても、ハイソフトの最大の強みとなるのは、「高品質なサービスを低コストで提供できることにある」と孫会長はいう。これまで中国のオフショアITサービスは低コストばかりが注目されてきたが、孫会長は「今後は低コストだけでなく、高品質なサービスを提供できる技術力で選ばれる会社にしたい」と強調した。

 孫会長によると、市場別に見たハイソフトの売上比率は現在、米国市場向けが60%、日本市場向けが30%で、中国市場向けは10%に過ぎないという。だが、今後3年間に売上全体が毎年40%伸びていく中で、中国市場向けが30%から40%を占めるようになると見ている。

 こうした中で、確かな技術力で中国市場に注力することは、3つの狙いからも読み取れるように、ハイソフトにとってまさにこれから求められるグローバル企業への挑戦だ。NASDAQ上場は、その地歩固めだといえる。

 では日本のITサービス企業は今後、ハイソフトに代表される中国のITサービス企業とどう戦っていけばよいのか。もちろん、これまでのオフショアITサービスのように協業を強化する局面も広がってくるだろう。ただ、顧客(ユーザー企業)獲得において一層熾烈な戦いになるのは歴然だ。世界のIT市場構造が大きく変わりつつある中で、グローバルな視点で何を強みにしていくのか。ハイソフトのグローバル事業戦略を聞いて、あらためてそう感じさせられた。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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