災害時に重要なのは平時からの備え――データ保護の観点からみたBCPITmedia エンタープライズ セミナー レポート(1/2 ページ)

災害は人々の生活だけでなく、企業活動にも大きな影響を与える。災害列島・日本において事業継続計画は、企業の命運を左右しかねない重要な課題だ。

» 2011年03月30日 12時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 ITmediaエンタープライズ編集部主催の第4回ITmediaエンタープライズ ソリューションセミナー「企業データ資産を守れ! 止まらない経営を実現する事業継続計画とは」が2月25日、開催された。

 企業の事業継続を妨げる原因には、震災、パンデミック、大規模な停電や交通機関のまひなど広域に及ぶ災害から、火災やスプリンクラーの誤作動などといった事業拠点レベルの事故、突発的なシステムトラブルまで、さまざまな状況が考えられる。こうした多種多様なリスクを考慮した上で損害を可能な限り小さく抑えようとするのが、事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の考え方だ。

 BCPにおいては、人的対応や組織としての対応など、さまざまな分野や幅広い範囲の対策が求められるが、本セミナーでは特にシステム面がフォーカスされた。例えば広域災害では、事業拠点そのものが壊滅的な被害を受けることもあり、その拠点にあったデータがPCやサーバと一緒に物理的に失われかねない。もちろん、損害を受けにくくする努力も必要だが、被害を避けられなかった場合に備えて、遠隔地にもデータを保管しておくことが重要だ。セミナーではこのデータ資産の保護に関する話題が中心となった。

BCPに役立つ仮想化技術の進展、課題はストレージ

日本仮想化技術 代表取締役兼CEO 宮原徹氏

 基調講演は、日本仮想化技術 代表取締役兼CEOの宮原徹氏の「システム継続性を実現する仮想化技術の活用法」だ。日本仮想化技術は社名の通り、仮想化技術に特化した企業で、仮想化技術に関する調査、ソフトウェアやサービスの開発、システム構築やコンサルティングサービスなどを手掛けている。

 「仮想化やBCPに関連した業務を手掛ける中で思うのは、システムのBCPはストレージ、すなわちデータ保護に行き着くということ」と語る宮原氏。システムのBCPで考慮すべき4つのポイントを挙げた。

  1. 日常的なシステムの動作継続性の維持
  2. データ保護
  3. 災害復旧対策(Disaster Recovery:DR)
  4. パンデミック対策

 まず基本となるのは日常的なシステムの動作継続性の維持だ。次に、いざというときに備えたバックアップデータの物理的な待避。復旧作業の確実な実施体制によってデータ保護を確立していかなければならない。それらを実現した上で、ようやく災害復旧対策やパンデミック対策を考えられるようになる。仮想化技術は、この全てに役立つと宮原氏は言う。

 「仮想化環境全体をクラスタ構成として冗長性を持たせることで、システムの動作継続性を確保できる。仮想マシン(VM)ならシステムを丸ごとバックアップすることも容易であり、Webサーバなど、旧来バックアップがあまり行われなかったものも含めて全体のデータを保護できる。そしてVMのポータビリティはDRの際に別サイトでの運用にも役に立つ。パンデミック対策としては、仮想デスクトップによる在宅勤務などが有効だ」(宮原氏)

 BCPの観点からみると、仮想化技術や関連技術の使い勝手が高まっていることが分かる。例えば、システムの動作継続性についていえば、ハードウェアは故障するものという前提に立った無停止運用が可能になる。

 「同様に、ネットワークに関しても課題が徐々に解消されてきている。さまざまな技術を活用してSPOF(Single Point of Failure:単一箇所の故障でシステム停止をもたらす要素)を解消できるが、現状ではストレージに課題が残っており、解決策としては分散ファイルストレージ技術が期待される。また、DRについては、仮想化との相性が良いものの、コストやシステム代替時の速度などが課題となる。こちらも、データ量に関連した問題だ。データ容量は、とにかく意外なほど増えてくる」(宮原氏)

冗長化されたハードウェア上で仮想サーバを活用することにより、障害に強いシステムを構成する

「取りあえずの対応」から脱し、先を見据えたプラットフォームを構築

サイバーエージェント Ameba事業本部 プラットフォームディビジョン コーディネーター 怡土研也(いと・けんや)氏

 「アメーバサービスの成長と今後をインフラ視点で見る」と題した特別講演には、サイバーエージェント Ameba事業本部 プラットフォームディビジョン コーディネーターの怡土研也(いと・けんや)氏が登壇した。怡土氏はAmebaサービス全体のインフラを担当、データセンターの構築・運用、最適化などを手掛けてきたという。

 現在、Amebaサービスは全体で月間ページビュー(PV)が約200億PV、売上高は広告・課金を合わせて四半期当たり約35億円と、国内最大規模のインターネットメディアになっている。しかし怡土氏によると、サービス初期にはサービスの提供もシステム基盤も計画性がなかったという。

 「2007年5月ごろまではブログ以外のサービスを提供したり、取りやめたりという状況だった。またほかの事業のサービスが同じインフラで運用されることもあり、まったく計画性がなかった。プラットフォームが混在していたし、保守もベンダーにほぼ依存するような状態で、予備部品などを保有せず、システムの冗長性もほとんどなかった。インフラ担当者は毎日ひたすらに、取りあえずのトラブル対応に追われていた」(怡土氏)

 2007年1月に同社に入社した怡土氏は、まず基盤整理に努めた。2008年ごろからはサーバのハードウェアやOS・ミドルウェアも一元化を進め、保守部品をストックするようにした。将来の成長を考えて、「月間100億PVまで使えるように」と余裕のあるデータセンターを選定する。これまで運用してきたデータセンターとの間でサービスを移行したり、データセンター間の連携を実現したりするなどの抜本的な対策に取り組んだ。

 「この時点になると人員も増え、運用手法を整えられた。現在の体制にもほぼ引き継がれている」(怡土氏)

 2011年現在、Amebaサービスは3つのデータセンターで運用されている。月間約200億PVを支えるインフラだ。今後は、「2013年には月間600億PV」を目標とし、海外への展開なども考慮した構成を目指しているという。

 「サーバのハードウェアは自作もしてきたが限界を感じ、自前でのクラウド環境の構築を進めているところだ。特に画像ストレージは容量の限界が近いので、急いで新たな構成を考えなければならない。さらなる規模の拡大に備えて、第4のデータセンターを設置する可能性もある。可用性が高まる一方で、当社では自社運用を基本としているので、その人手をどう確保するかという課題もある。会社の目標に対して、われわれインフラ担当者がどう支えていくのかを常に考えながら、今後も引き続き課題に取り組んでいく」(怡土氏)

2007年、2009年、2011年それぞれの時点におけるAmebaサービス基盤の状況
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