危機の中でもビジネスの継続を支えたコミュニケーションツールの実力(2/2 ページ)

» 2011年04月18日 08時00分 公開
[米野宏明(日本マイクロソフト),ITmedia]
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急な自宅待機でも生産性を維持

 翌週からは業務に支障のない限り、原則として在宅勤務の指示が出されました。もちろん在宅と言っても、常に連絡可能であることを条件に勤務の場所は自由ですので、必ずしも普段の「自宅」である必要はありません。

 筆者もここから1週間以上は一度も本社には出向きませんでした。本当に何の準備もないまま、突然に在宅勤務を始めたわけですが、しかし意外なほど困りませんでした。これには、全社に展開されている3つのテクノロジーが大きく貢献しています。

 1つ目は、Windows 7に搭載された「Direct Access」です。これは専用のVPNクライアントソフトウェアなどを必要とせず、インターネットを経由して直接企業内ネットワークに安全にアクセスできるものです。持ち帰ったノートPCで自宅でも外出先でも、すぐにオフィス内で使用しているのと同じく全てのイントラネットリソースを利用できたのです。発注やイベント管理、経理処理などのために社内システムにアクセスする機会が何度もありましたが、全て問題なく処理できました。

 2つ目は、デスクトップのOfficeスイートに含まれる「SharePoint Workspace」によるフォルダの自動同期です。Direct Accessがあっても、こちら側の接続状況が悪ければ、ファイルのコピーだけでも相当な時間がかかります。SharePoint Workspaceは、「ワークスペース」と呼ばれるフォルダの内容を、複数のコンピュータ間で自動的に同期します。筆者の場合、部門のワークスペースや、自分が所有する複数のPCの「My Documentsフォルダー」を同期するワークスペースなどを持っています。このおかげで、ノートPCのローカルのHDDには、既に重要なファイルの多くがコピー済みで、サイズの大きい売上分析用Excelやセミナー用のPowerPoint資料などもすぐに利用できたのです。

 3つ目はもちろんUCです。プレゼンスやテキストチャットだけでなく、在宅勤務ではオンライン会議や音声通話がさらに役立ちました。日常の部門会議は、会議室やフリースペースに移動して、資料をモニターに投影しながら行っていました。Lyncのオンライン会議では、モニターの代わりに各人のLyncクライアント上で資料やアプリケーションの共有ができますが、その資料への書き込みやアプリケーションのリモート操作もできますので、むしろ生産性が上がる部分もあります。

任意のアプリケーションを共有して共同で操作できる

 また、資料共有をするまでもないがテキストチャットではもどかしいような場合、Lyncの音声通話だけを使いました。内線と同じなので、相手がどこにいようとも電話代はかからず、気軽に利用できました。

外部とのコミュニケーションにも威力を発揮

 外部の顧客とのコミュニケーションにもUCが活躍しました。インターネット上に会議サーバを公開しているため、外部の顧客ともオンライン会議ができます。本当は顧客先に訪問してLyncの事例取材の事前調整を行う予定でしたが、交通に不安もあったため、Lyncを使ったオンライン会議に切り替えました。

 また一部のパートナー企業とは、「フェデレーション」と呼ぶ、お互いのLyncネットワークを接続するようにしていました。社内のメンバーと同じレベルで全てのLyncの機能が使えました。さらに、至急の対応のためにLyncのVoIP外線通話機能を使って顧客に電話をかけたり、外線着信を受けたりすることもありました。Lyncは、ログインさえすればクライアントソフトウェアが自分の「ソフトフォン」になり、外線の発着信ができます。持ち帰ったノートPCが筆者の電話機になったわけです。こちらから打ち明けない限り、相手は筆者が自宅から電話しているとは思わなかったでしょう。実際に公衆回線へはソフトウェアPBXとして動作している会社のLync Serverからつながっているため、相手の着信には筆者の会社の電話番号が表示されますし、通信キャリアに支払う電話代もサーバの場所からの発信として会社にチャージされます。

PCが自分の電話機に

必要な仕事環境を1台の非力なノートPCだけで再現

 事前の準備なく、突然出社しなくなっても生産性を落とさずに済んだのは、手持ちの非力なノートPC1台であっても必要なレベルの仕事環境を再現できたからです。オフィスや自宅といった特定の場所に限定せず、どんな場所に移動したとしても高い生産性を維持できる、情報活用インフラが整備されていたことが、最大のポイントです。

 ここまであえて説明はしてきませんでしたが、もちろんOutlookによる電子メールやWord、Excel、PowerPointといったデスクトップツールも必要不可欠な要素でした。筆者の場合は、余震や事故、停電など突然のアクシデントにもすぐに対応できるように、この間はできるだけノートPCで作業するようにしていました。また、連休を利用して遠出もしたのですが、その際もこのノートPCと通信カードを持ち歩き、残作業や会社のポリシー変更への対応を続けました。外出先での作業では必ずしも良好なネットワーク環境は保障されませんから、基本的な作業はオフラインで実行し、必要最低限の部分をネットワークに依存するような作業環境が必要です。また、あれこれ多数のデバイスを持ち歩いている余裕はありませんから、1台のノートPCにすべてが集約されていることが望ましいのです。作業の土台となるデスクトップOfficeスイートとUCが、そのためのベストな組み合わせであることを切実に体験した1週間でした。

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