【第1回】危機対応時の情報処理のあり方災害発生! 組織の危機管理は(1/2 ページ)

本連載では、企業および組織の危機管理を行う上で最重要とされる「情報処理のあり方」について、京都大学防災研究所巨大災害研究センターの牧准教授が解説する。

» 2011年05月10日 08時30分 公開
[牧紀男,京都大学]

 マグニチュード(M)9.0の東日本大震災は、東北地方沿岸地域に壊滅的な被害を与え、さらには福島第一原子力発電所に重大な事故をもたらせた。この災害の影響は東北地方のみならず、首都圏、さらには海外にまで波及している。首都圏では計画停電に伴う経済活動の停滞などの影響が発生したほか、日本からの工業部品の出荷停止は世界の工業製品の生産活動に影響を与えている。東日本大震災は企業や組織における事業継続マネジメントの重要性を再認識させた。

 組織の危機管理の目標は、ある組織が目標とする活動を停止させないことにある。工業製品を製造している企業の場合は、製品の製造を継続させ、さらに納期までにその製品を顧客に対して納入することであり、金融企業の場合は、資金仲介機能、決済機能という金融の2大機能を停止させないことにある。

 そうはいっても、東日本大震災のような大規模災害の際は一時的に業務が停止してしまうことは避けられず、停止した場合にはどれだけ迅速にその機能を回復させるかが重要になる。機能回復の活動だけを行うのでなく、取引先などの関係機関に対して、いつまでに復旧させることが可能なのかを発信することが不可欠である。

 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロではニューヨークの世界貿易センター(WTC)が大きな被害を受けたが、「自分の組織は生き残っています(I am alive)」という情報が多くの企業から発信され、その情報が取引先の企業、さらには支援を実施しようとする行政機関に対して重要な情報となった。

 本稿ではこれから3回にわたり、企業および組織の危機管理を行う上で最も重要となる「危機対応時の情報処理のあり方」について説明していく。第1回は、危機対応時の情報処理の基本的な考え方という概念的なものを解説し、2回目以降は、効率的な危機対応を可能とする「危機対応センター」(Emergency Operation Center、EOC)のあり方、収集した情報をどのようにとりまとめ、関係者間で共有するのか(「状況認識の統一」、Common Operational Pictures、COP)といった、危機対応時の情報処理の具体的な方法論について述べる。

意思決定機能が存続しているか

 危機に見舞われた際に、最も重要なことは企業や組織が生き残っているということである。東日本大震災では、ある自治体で町長を含めて30人以上の行政職員が死亡・行方不明になるという事態に陥り、行政機能が一時完全に失われた。危機対応する上で最も重要な行政機能が失われたことで、その後の緊急対応が効率的に実施できないという問題が発生し、同じような壊滅的な被害を受けたほかの市町村と比べて災害からの回復が遅れている。

 これは企業においても同様で、非常時には危機対応に関して意思決定機能を持つ経営トップが指揮をとることが必要であり、仮にトップが意思決定を行えない場合の代替順位を決めておくことも不可欠である。

 組織の危機管理において重要となってくるのが危機対応にかかわる情報処理である。最初のステップは組織を取り巻く「現状把握」を行うことである。危機対応における意思決定の難しさが叫ばれるが、正しく現状を把握できれば、やるべき内容は自ずと明らかになってくる。阪神・淡路大震災における「ジレンマ」(どちらを選んでも何らかの犠牲を払わなければならない)事例を収集した「クロスロード」というゲームが整備されていることからも分かるように、危機対応にかかわる意思決定に「これが正しい」という答えはない。どれだけうまくやっても誉められることはほとんどなく、100点満点で60点がとれれば良しとされるのが実情である。

 現状把握というと、被害状況を収集することだと考えがちだが、現状把握のためには2つの情報が必要となる。1つはどんな被害が発生しているのか、もう1つは企業や組織の活動にどのような影響が発生しているのかという企業、組織をとりまく「状況把握」のための情報である。

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