【第1回】エラスティック経営とIT日本企業のグローバル進出を支えるIT(1/3 ページ)

もはや日本企業にとって海外展開は避けられない。そうした中でIT戦略をどう考えていくかが重要となる。新連載では、本テーマについてアクセンチュアのコンサルタント陣が解説していく。

» 2011年05月16日 12時00分 公開
[立花良範,アクセンチュア]

冒頭、先の東日本大震災にて被災された全ての皆さま、そのご家族ご親族、ご友人に対し、衷心よりお見舞い申し上げます。多くの日本企業様においても、様々な復旧の努力がなされているとのこと、見聞いたしております。

以下に続く雑文が、仮に直接的でないにせよ、そうした皆さまの日々のお仕事に対し何かしらお役に立つものであればと願っております。



 日本企業のグローバル化に関するニュースを耳にしない日はない。事業戦略としての海外進出や、そのためのM&A(企業の合併・買収)といった対外的なアクションはもちろんのこと、社内での英語の公用化、外国人の新卒採用強化など、昨今は各企業が内側からグローバル化を企図する取り組みも目立つ。

 アクセンチュアでは、グローバル化時代の企業運営モデルをその進化に応じて4段階に分け、「グローバル・オペレーティング・モデル」として企業に提示している。国別組織から地域ごとのシェアード組織へ、さらにグローバル統合された組織の3段階でモデルはいったんの完成を見るが、そこからマーケットや事業の集約、各国ローカルへの浸透を通じてグローバルとローカルの最適バランスを目指す「スーパーグローバル・スーパーローカル」という最上級モデルに発展を遂げる。

<strong>図1</strong> グローバル・オペレーティング・モデル:ハイパフォーマンス企業は、グローバルモデルの構築、ないしスーパーグローバル/ローカル化を実現している(出典:アクセンチュア) 図1 グローバル・オペレーティング・モデル:ハイパフォーマンス企業は、グローバルモデルの構築、ないしスーパーグローバル/ローカル化を実現している(出典:アクセンチュア)

 スーパーグローバル・スーパーローカルへの進化をうながす1つの要因は、世界的多極化であろう。日米欧の3極集中から、中国、ロシア、インドといった新興国の発展に伴い、世界は多極化の時代を迎えている。その過程でわれわれは、古くは1987年のブラックマンデーに始まり、2000年代初頭のITバブル崩壊、記憶に新しいサブプライムショックやリーマンショックと、世界的なバブルの生成と崩壊を経験してきた。

 またその合間には、前世紀末のアジア通貨危機や、昨年のギリシャ財政危機のような極レベルの景気のスパイクが起きている。こうした環境下で現代のグローバル企業に求められるのは、好況時には迅速かつ大胆な資本投下によって新規事業を展開し、不況時には撤退や資産売却を含む「選択と集中」により効率性を担保する、エラスティックな(伸縮性のある)経営スタイルである。

<strong>図2</strong> 多極化時代のエラスティック経営(出典:アクセンチュア) 図2 多極化時代のエラスティック経営(出典:アクセンチュア)

ITとはカネ、ヒト、モノ

 では、企業のエラスティックな経営を支えるITとはいかなるものであろうか。それが本稿のテーマである。

 本題に入る前に、道具立ての整理をしておきたい。そもそもITとは何であるか、それを本稿では3つの観点から語っていく。

 第一に、ITは「カネ」である。それは投資であり、その結果としての効果であり、運用局面においては経費でも償却費でもある。予算計画から各事業、各国への配賦、全社もしくは各社での実行と効果創出、日々の運用改善に至るまで、一連の流れを貫く意志と統制はITにおける経営そのものにほかならない。

 第二に、ITは「ヒト」である。コンピューターの箱を買ってきて、そこに何かしらのパッケージなりソフトウェアなりをインストールして、プログラミングが終われば役に立つというものではない。その企画設計と適用、実際の効果創出は、ITにかかわる組織要員、さらにはそれを実際に利活用する事業部門やユーザーにかかっている。IT子会社はもちろん、外部のシステムインテグレーターやテクノロジベンダーといったパートナー企業も、こうしたヒトの議論の範疇に含まれる。

 第三に、ITは「モノ」である。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、データセンターといった目に見えるモノである。これらは全て、財務経理的観点から言えば企業の資産であり、工場や店舗、導管、消耗品と同様、資産としての意義とパフォーマンスを常に測られ、問われなければならない。

 これら3要素をとりまとめて指針とするものがIT戦略である。エラスティック経営に即したIT戦略を考えるにあたり、昨今世の中をにぎわせている「クラウドサービス」の是非を企業ITの現況と並べて考えることから始めたい。

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