進化するコンピューティング環境の行方Weekly Memo

コンピューティング環境の進化は今、「第4の波」を迎えているといわれる。果たしてその先はどうなるのか。

» 2012年01月30日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

総合力が問われる垂直統合型ビジネス

 「2012年はOracle Fusion Applications、Oracle Fusion Middleware、そしてエンジニアドシステムズの3分野に注力する」

 日本オラクルの遠藤隆雄社長は1月24日、同社が開いた事業戦略説明会でこう強調した。

 Oracle Fusion Applicationsは、オラクルがこれまで6年かけて開発した新しい業務アプリケーション製品群で、世界各地で順次提供され、日本でも今春から投入される予定だ。

 Oracle Fusion Middlewareは、Oracle Fusion Applicationsの価値を最大化して活用するために、SOA(サービス指向アーキテクチャ)フレームワークを中核としたミドルウェア製品群である。

 そして、これらとともに2012年の注力分野として同社が挙げるエンジニアドシステムズは、「Hardware and Software Engineered to Work Together(ハードとソフトが一体となって最適に動くように設計・実装されている)」をコンセプトとした製品群である。

 具体的には、高速データベースマシン「Oracle Exadata Database Machine」、高速クラウドマシン「Oracle Exalogic Elastic Cloud」、「SPARC T4」プロセッサと「Oracle Solaris」を搭載した「SPARC SuperCluster」、まもなく登場する高速分析マシン「Oracle Exalytics In-Memory Machine」などからなる。

 その触れ込みは、「従来のソフトとハードを最適化したアーキテクチャにより、圧倒的なパフォーマンスの実現のみならず、統合にかかっていた時間やそれに伴うコストを最小限に抑えることで、顧客に包括的なソリューションを提供する」(遠藤社長)というものだ。

 このエンジニアドシステムズは、クラウドを中心とした次世代コンピューティング環境に向けたオラクルならではの提案である。必要な道具立てを自前で取り揃える垂直統合型製品を展開できるのは、言い換えれば、それだけの道具が自前で揃えられるということだ。

 垂直統合型は、製品とともにビジネスモデルでもある。その意味ではオラクルをはじめ、IBM、HP、そして富士通やNECなども垂直統合型を目指している。

 ただ、企業ユーザーとしては「ベンダーロックインは避けたい」「オープンなITを採用したい」との思いが強い。次世代コンピューティング環境では、そうしたユーザーニーズとの整合性がどう取られていくのか、気になるところだ。

 この点に関して、日本オラクルの大塚俊彦副社長執行役員は「統合型製品ではフルスタックということを強調しているが、一方でスタックそれぞれがオープンな製品としてきちんと認知されることが肝要だ」と語ったが、垂直統合型ビジネスを展開するベンダーにとっては、これまで以上に総合力が問われることになりそうだ。

クラウドがもたらした第4の波の次に来るのは…

 日本オラクルのエンジニアドシステムの説明を聞きながら、次世代コンピューティング環境について、かつて聞いた話を思い出した。通産省時代の「前川レポート」で知られる前川徹サイバー大学IT総合学部教授が2年あまり前に講演で語っていた話だが、今も色あせない内容で非常に興味深いので、この機会に紹介しておきたい。

 前川教授によると、コンピューティング環境の進化は今、「第4の波」を迎えているという。第1はメインフレーム、第2はパソコン、第3はWebを中心としたインターネット、そして第4はクラウドコンピューティングという変遷だ。クラウドは2008年頃から波が起こり始め、2027年頃にピークを迎えるのではないか、というのが同氏の見立てだ。

 そして最も興味深いのが、その4つの波を、「集中 vs. 分散」「分断 vs. 接続」という観点で、4象限に分けた図の意味するところだ。4象限のうち、右側を集中、左側を分散、また上側を接続、下側を分断とすると、4つの波は図のように分類される。それぞれの象限の下にあるベンダー名は、いわゆるメインプレーヤーである。

コンピューティング環境の進化の変遷(前川徹サイバー大学IT総合学部教授の講演資料より) コンピューティング環境の進化の変遷(前川徹サイバー大学IT総合学部教授の講演資料より)

 図を見ると、メインフレームを起点として4つの波は時計回りに移り変わってきている。では、4つの象限を回ったコンピューティング環境の進化は、これからどうなるのか。果てしなくクラウドの成熟へと向かうのか。それとも……。

 もし、コンピューティング環境の進化がこの4象限を時計回りで移り変わるサイクルだとしたら、クラウドはいつしかメインフレームになってしまうかもしれない。そこであらためて考えてみたい。垂直統合はこの図でいう「集中&接続」と同じ意味ととらえてよいのか。「分断」の恐れはないのか。

 「集中 vs. 分散」「分断 vs. 接続」という観点は、テクノロジーだけでなく、ビジネスもしくはユーザーの視点でもとらえたいところだ。そこから、進化するコンピューティング環境の行方が見えてくるような気がする。

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