HPEがハイブリッドクラウド向けサービスによるビジネスモデルの転換を図りつつ、ネットワーク事業の強化で業態をも転換しようとしている。ただ、こうした大転換は思惑通りに進まない可能性もある。同社の今後は躍進か、停滞か。IT分野のトレンドを映す動きでもあるため、この行方について考察する。
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ここ数年、IT分野におけるビジネスモデルが、製品の一括販売からサービス提供によるリカーリング(継続課金)へと変化してきた。そのサービスの代表例がクラウドだ。そうしたビジネスモデルの転換をオンプレミスにおいても製品やサービスにいち早く適用し、浸透に注力しているのが、米Hewlett Packard Enterprise(HPE)だ。
さらに同社はここにきてネットワーク事業を大幅に拡充し、業態転換をも図ろうとしているようだ。ただ、こうした根本的な転換は思惑通り進まなければ、経営を揺るがす事態になりかねない。HPEの今後は、さらなる躍進か、それとも停滞してしまうのか。IT分野のトレンドを映す動きでもあるので、本稿ではHPEの行方に注目し、考察したい。
「2015年に当時のHPが分社して生まれたHPEは10周年を迎え、お客さまのDX(デジタルトランスフォーメーション)を最新技術によって支援してきた。これからの10年も当社ならではのソリューションを提供し、まい進したい」
HPE日本法人の日本ヒューレット・パッカードで代表執行役員社長を務める望月弘一氏は、同社が2025年12月15日に開いた今後の事業方針に関する記者・アナリスト向けの説明会でこう切り出した。
直前に発表されたHPEの2025年度(2025年10月期)の業績は、売上高が343億ドルで前年度比14%増となり、主力事業としているネットワークやハイブリッドクラウド、AIの3つとも「堅調に推移している」(望月氏)とのことで、日本も同様の結果だったようだ。
日本法人の2026年度(2026年10月期)の事業方針は、「ベンダーニュートラル、クラウドニュートラルな『第三極のクラウドプラットフォーム』を提供し、お客さまのビジネス変革と持続可能な社会に貢献する」として、「Leading edge-to-cloud company」になることを掲げた。
実は、同社がこの事業方針を掲げて3年目に入る。望月氏はこの点について「Leading edge-to-cloud companyになることを掲げてこれまで2年間活動してきた。3年目は『Leading』という立ち位置を一層明確にしたい」と力を込めた。また、「第三極のクラウドプラットフォーム」とは同社のハイブリッドクラウド向けサービス「HPE GreenLake」(以下、GreenLake)のことで、これこそが冒頭で述べた同社のビジネスモデルを転換するソリューションだ。
同社はこうした事業方針の下で、日本法人の今後の注力領域として図1に記した4つを挙げた。
端的にいえば、1つ目は「ネットワーク事業の強化」、2つ目は「GreenLakeの拡大」、3つ目は「インフラ事業の強化」、4つ目は「AIへの注力」である。本稿ではこのうち、1つ目と2つ目にフォーカスする。
まず、ネットワーク事業について、望月氏は「AIの活用が進めば、AIに関するワークロードが求めるネットワークの要件は大きく変わる。一方、最適なネットワーク環境を整備する上でAI活用が不可欠になる」とAIとの関係性を強調し、そうした背景の中で2025年11月にJuniper Networksとの統合に至ったことを説明した。
望月氏はこの統合効果について、「お客さまに幅広いネットワークソリューションを提供できるようになった。この統合によって、HPEのネットワーク事業の売上高は倍増し、全体のおよそ3分の1の規模になった」と述べた。図2が、そのネットワークソリューションの概要だ。
また、ネットワークへのAI活用においては、図3に示すように、AIによる「Self-Driving Network」の実現に注力する考えだ。
望月氏と共に説明に立った同社の本田昌和氏(執行役員 HPE Networking事業統括本部長)はこの点について、「Self-Driving Networkはすなわち自律型のネットワーク運用のことで、ネットワークの世界で長年にわたって目標とされてきたテーマだ。AIエージェントによってこれを実現する」とし、こうした取り組みによって「これまで1社が独占していたネットワークソリューション市場でシェアトップを奪取すべく注力したい」と、この市場に君臨するCisco Systemsを追撃する構えだ。
一方、GreenLakeについては「2019年にHPEの全ての製品をas a serviceとして提供することを宣言し、その運用品質を上げるためにこれまでさまざまなソフトウェア技術も買収によって取り込んできた。これによってベンダーニュートラル、クラウドニュートラルな利用環境はますます拡充している」(望月氏)とのことだ(図4)。
その上で、同氏は図5を示しながら、「このグラフは米国の調査会社による結果で、ここ5年間で企業におけるプライベートクラウドへの回帰トレンドが高まっていることを表している」とし、「HPEとしては、企業では今後もハイブリッドクラウド化が進むと考えている」と、従来の認識を改めて示した。
この認識が、HPEがGreenLakeを推進する拠り所なので、改めて紹介したが、筆者の捉え方ではこのトレンドは大企業が対象で、しかもプライベートクラウドとパブリッククラウドの利用比率が分からないと「回帰」という表現が妥当なのかどうか疑問が残る。言い方を変えれば、どんな利用比率でも当てはまるハイブリッドクラウドが表現として主流になるのは当然だ。その意味で、GreenLakeが市場のニーズを捉えているとはいえるだろう。
ただ、今回の会見での説明を聞いて、筆者の頭に2つの疑問が浮かんだ。
一つは、全売上高のおよそ3分の1の規模になったというネットワーク事業は、今後、半分以上の規模になり得るのか。HPEとしてそうしたいという考えがあるのか。この質問の意図は、売上規模が過半数になると、HPEはサーバベンダーからネットワークベンダーに代わると考えるからだ。
もう一つは、GreenLakeは現在、全事業の何割に適用されているのか。この質問の意図は、まさしくHPEのビジネスモデルの転換がどれくらい進んでいるかを知るためだ。ちなみに、この質問については1年前の事業方針会見でも尋ね、望月氏は日本法人として「全体の2割程度」と答えていた。それがどれくらい伸びたのか。
以上、2つの質問を会見の質疑応答で聞いてみたところ、望月氏は次のように答えた。
まず、ネットワーク事業については、「事業規模の割合については控えるが、相当期待しているし、注力もする。HPEの中核事業になるのは間違いない。市場のトップベンダーに対抗する存在になる」と答えた。割合の明言は避けた格好だ。
そして、GreenLakeについては、「全事業における割合も明言はできないが、全売上高の伸びを上回る形で成長しており、2割を超えて20数%といったところだ。今後、ネットワーク事業もGreenLakeの対象として増えるので、割合の増加に弾みがつくと考えている」と答えた。「20数%」と聞いたので「そんなに伸びていないようだが……」と返したところ、「そんなことはない。着実に増加している」と強く言い返してきたのが印象的だった。
ちなみに、GreenLakeのようなハイブリッドクラウド向けサービスによって、製品の一括販売からサービス提供によるリカーリングへとビジネスモデルの転換を図りつつあるのはハードウェアやソフトウェア、ネットワーク、SI(システムインテグレーション)にかかわらず、どのITベンダーも同じだ。その意味では、GreenLakeの動きがIT業界のビジネスモデル転換の映し鏡ともなり得るだろう。
ここで言葉の補足説明をしておくと、リカーリングとは幅広いサービスに適用されている「サブスクリプション」(サブスク、定額課金)や、クラウドサービスなどで利用量に基づいて課金される「コンサンプション」(従量課金)を包含した言葉だ。定額だろうが従量だろうが「継続」の課金に変わりはないので、本稿ではリカーリングと表現している。
HPEは今、ハイブリッドクラウド向けサービスによるビジネスモデルの転換を図りつつ、ネットワーク事業の強化で業態も転換しようとしている。ただ、こうした大転換は思惑通りに進まないことも多い。同社は今後、さらなる躍進を遂げるのか、それとも停滞モードに入ってしまうのか。設立10年を節目に、HPEは分社以来の正念場を迎えている。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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