2012年新春インタビュー

【新春鼎談】この時代に働くということ2012年 それぞれの「スタート」(1/5 ページ)

混沌とした社会において、われわれはどのように働き、生きていけばいいのか。リビングワールド代表で、働き方研究家の西村佳哲氏、「東京R不動産」の創業メンバーである馬場正尊氏および吉里裕也氏が、進むべき新たな方向性を示した。

» 2012年02月07日 13時00分 公開
[取材・文/伏見学,ITmedia]

 長引く経済の低迷、自然災害への不安、少子高齢化によるマーケットの縮小──。先行きの不透明な日本に閉塞感を持ちながら企業で働く者がいる一方で、新しいワークスタイルを模索し、そこに活路を見出す者もいる。この激動の時代を生きていくためには、もはや選択肢は1つではないのだ。

 本稿では新春鼎談として、働き方研究家の西村佳哲氏と、「東京R不動産」の創業メンバーである馬場正尊氏、吉里裕也氏に「働き方」や「仕事」をテーマに語り合ってもらった。そこから見えてくる新たな社会のあり方とは──。


小さなカヤックで海を渡る

──まずは自己紹介と、2011年の活動を振り返っていただけますか。

西村 妻と一緒に運営している「リビングワールド」というデザイン事務所で、モノづくりとデザインの仕事をしています。加えて、大学での講義やワークショップなど人とかかわることをしたり、本を書いたりしています。

西村佳哲(にしむら よしあき)氏。1964年東京都生まれ。プランニング・ディレクター。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物など、各種デザインプロジェクトの企画・制作を重ねる。多摩美術大学などいくつかの教育機関で、デザインプランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜)。働き方研究家。著書に『自分の仕事をつくる』(晶文社)など 西村佳哲(にしむら よしあき)氏。1964年東京都生まれ。プランニング・ディレクター。武蔵野美術大学卒。つくる・書く・教える、三種類の仕事。建築分野を経て、ウェブサイトやミュージアム展示物など、各種デザインプロジェクトの企画・制作を重ねる。多摩美術大学などいくつかの教育機関で、デザインプランニングの講義やワークショップを担当。リビングワールド代表。全国教育系ワークショップフォーラム実行委員長(2002〜)。働き方研究家。著書に『自分の仕事をつくる』(晶文社)など

 昨年は出版ラッシュで、文庫版も含めて4冊刊行しました。現在も新刊に取り組んでいるのですが、それを書き終えたらしばらく執筆はストップしようと思っています。

吉里 もともと私は大学で建築設計を学んで、デベロッパーで5年ほど働いていました。独立後、馬場と一緒に東京R不動産を立ち上げ、SPEAC(スピーク)という会社を作りました。スピークは、不動産コンサルティングや不動産の仲介、建築設計を行っています。

 昨年は、外部に対していろいろなものを発散した1年でした。具体的には、東京R不動産のグループサイトが新たに5つオープンしました。特に意図したわけでもなく、タイミングと人との出会いの積み重ねで、結果的にサービスがさまざまな方向に広がりました。

馬場 僕はOpen A(オープン・エー)という建築士事務所を活動の基盤に置きながら、東京R不動産や大学講師の仕事を行っています。東京R不動産について簡単に紹介すると、この事業は5人でスタートして、主に吉里と林(厚見)と僕の3人で経営の中核業務を行っています。3人の役割は少しずつ異なり、吉里が全体のマネジメントを行い、林がキャスティングなど財務面を担当しています。僕は広報的な役割を請け負っています。大切なことは3人で決めています。

 去年は、仕事の内容が大きく変わったわけではありませんが、東日本大震災によって設計の仕事にダメージがありました。沿岸地域での案件が多かったので津波などによってキャンセルが相次ぎました。また、東北芸術工科大学(山形県山形市)で教えているゼミの生徒たちが被災しました。幸い皆無事でしたが、家族や友人を亡くした生徒はたくさんいました。ボランティアなどで何度か被災地へ足を運びましたが、その風景を見ながら考えさせられることは多かったです。

「いま、地方で生きるということ」(ミシマ社) 「いま、地方で生きるということ」(ミシマ社)

西村 先ほどグループサイトが増えたことについて、「発散」という表現をされました。話を聞きながら思い浮かべたのは、今まで日本社会は大きな船にたくさんの人を乗せて航海するのが主流だったのが、複数の小船、小さなカヤックに分かれて海を渡っていく時代になりつつあるということです。例えば、ドラフトという宮田誠さんのデザイン会社も昨年末に分社化しました。今後ますます小船に分かれる動きが加速すると感じていた中、宮田さんが自分の会社を複数に小分けしたのはなるほどと思ったわけです。

 そこで、東京R不動産の発散というのは、小さな船がたくさん出来ていくようなものなのか、(1つの船の事業範囲が)広がるということなのでしょうか。

吉里 双方に当てはまりますね。例えば、「(R)studio DIRECTORY」というサイトは子会社が運営するので小船というイメージが近く、「団地R不動産」などは今後の可能性を見ながらも現状では東京R不動産の一事業として運営しています。

馬場 僕らにとってどんな組織形態や関係性が理想的なのかは分かりません。実は、吉里と林と話すときは、東京R不動産をどのようにしていけばいいかという点に大きく時間が費やされています。3人とも少しずつ温度差があるのですが、共通しているのは、働いているメンバー一人一人がいかに自由で幸せであるかということです。事業よりもこれが重要です。

 メンバー個々人のやりがいや思いによって、各サイトへのかかわり方や出資比率などはバラバラです。その集合体として、“東京R不動産的なやつら”というふわふわした雲のような存在が出来上がっているのです。ぼんやりとした大きな船でいいのか、小さなカヤックの集団であるべきなのかはまだ分かりません。

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